研究概要 |
(Na,K)ATPaseに対する内因性阻害因子の存在が, 哺乳動物の各種臓器や血漿, 或いはカエル, 電気ウナギなどで報告されている. 発生初期のArtemia(brine shrimp)には(Na,K)ATPase分子は存在するが活性は検出されず, 内因性阻害因子の存在が一つの可能性として考えられた. 本研究はこの因子を分離精製し, その特性を分析することが目的であり, 本年度はこの因子に関し以下の新たな知見が得られた. 1.Artemiaの可溶性画分には(Na,K)ATPaseの阻害因子が存在し, 硫安0-45%画分に40-90%回収され, また密度勾配超遠心では高密度領域に沈降した. 2.ところがこの画分の阻害因子はトリプシンやパパインに低抗性であり, 且つ100°C, 10分の処理でも失活しなかった. 3.可溶性画分から直接クロロホルム・メタノールで抽出したところ, 阻害活性は400-500%回収され, またアセトン抽出では可溶性画分に抽出された. 4.アセトン抽出した阻害活性は薄層クロマトグラフィーでは2つのスポットに分離し, それらはC_<16>-C_<18>高級脂肪酸およびそれらのトリアシルグリセロールと同室した. 5.どちらもKiは10^<-5>M程度で, イヌ腎臓由来の(Na,K)ATPaseも阻害した. 6.これらの結果からArtemiaの阻害活性に高級脂肪酸に起因すると推定した. 高級脂肪酸による(Na,K)ATPaseの阻害様式と膜結合型酵素および可溶化脱脂質酵素について検討し, 脂肪酸が直接酵素分子に影響するのか, 或いは脂質二重層を通して間接的に阻害するのか, その機構を今後明らかにし, 生理的役割を探る手がかりとしたい.
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