研究概要 |
本研究前年度においてArtemiaに存在する(Na,K)ATPase阻害活性は高級脂肪酸およびその誘導体に起因することを明らかにした。本年度はこの阻害因子について以下の知見を得ることができた。 1.本阻害因子は発生初期のみならず、nauplius幼生にも存在すること 2.水に対する溶解度から判断して阻害因子の1つがトリアシルグリセロールである可能性は低いこと。 3.不飽和高級脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、リノエライジン酸)は飽和高級脂肪酸(ステアリン酸)より効果的に阻害し、Kiは10^<-5>M近傍にあり、精製した阻害因子の値と近いこと。 4.cis型およびtrans型不飽和脂肪酸はいずれも阻害活性を持つが、阻害の濃度依存性が両者が異なり、trans型(エライジン酸)はcis型(オレイン酸)より高濃度領域で阻害性が低いこと。 これらの高級脂肪酸およびその誘導体による(Na,K)ATPase阻害様式を明らかにするには、可溶化脱りん脂質した酵素を調製しその特性および脂質との相互作用を調べる必要がある。そこでArtemiaの(Na,K)ATPaseについてこれを実行し、以下の結果を得た。 5.両イオン性界面活性剤、CHAPSで可溶化後カラムを通して脱脂質しても、酵素1分子当たり10ー15分子のりん脂質が結合していること。 6.脱脂質した酵素は活性を示さないが、りん脂質を再添加すると活性が回復すること。この際K^+共在下のほうが活性の回復率が高いこと高級不飽和脂肪酸は、体循環性の(Na,K)ATPase阻害因子として同定され、生体内で果たす役割りは大きいと考えられる。不飽和脂肪酸の作用機構を解析することは興味深く、脱脂質酵素はその研究に都合のよい手段となることが期待される。
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