研究概要 |
放射線は種々の染色体異常を引きおこし, 細胞に対して致死, 突然変異及びがん化誘発効果を持つことは広く知られている. また, 最近のめざましい遺伝子工学の発展に伴い, すでに40種以上のがん遺伝子が同定され, 細胞がん化はこれらの遺伝子が突然変異や重複により活性化した結果生じるものと考えられている. 本研究では, 放射線による細胞がん化機構を明らかにするため, 細胞がん化に伴う特定染色体変化を同定するとともに, がん化形質発現とがん遺伝子活性化との関連性について解析を行った. まず, ゴーデンハムスター胎児より分離した初代培養細胞にX線を照射し, 培養下で経時的にがん化形質発現の有無を調べた. その結果, 未照射細胞では10継代培養すると増殖率が低下し死滅するのに対し, X線照射した細胞は長期間増殖しつづけ, 軟寒天培地中でのコロニー形成能やヌードマウスに対する造腫瘍性等のがん化形質発現が見られた. 従来, がんは正常組織が長期間かかって段階的な変化をおこした末に生じるものとされてきたが, 本研究により, 細胞レベルでもがん化の多段階性が証明できた. 次に, 細胞がん化に伴う染色体変化を同定するため, X線照射により出現した軟寒天コロニー形成細胞, さらにされらの細胞をヌードマウス皮下に移植して得た腫瘍形成細胞について核型分析を行った. その結果, 軟寒天コロニー形成細胞では共通して第7番染色体のトリソミー, 腫瘍細胞においては第7番に加えて第6番と第9番染色体にトリソミーが観察された. 本年度の研究では, X線による細胞がん化過程は多段階より成り立っており, その各段階には特定染色体の数的変化が関与していることが示された. 次年度は, これらの細胞より活性化がん遺伝子を分離し, その遺伝子構造と発現量を調べることにより, ハムスター細胞のがん化に伴う染色体変化の役割を明らかにする予定である.
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