本研究の目的は、従来まとまった研究が少ない、東アジアの大気の鉛直方向の構造すなわち大気の成層状態のとりまとめを気候学的見地から試みた。 内容は高層気象観測資料の気候学的解析の部分と、春先に中国から飛来する黄砂をトレーサーとして大気の成層状態を調べた部分の二つに大別される。 前者の主要な成果は次のとおりである。本研究に関連して、代表者が指導している大学院生の学位論文"北半球対流圏における逆転層の気候学的研究"において、北半球の夏と冬の逆転層の出現高度の頻度分布をクラスター分析で型分けし、地域区分を行ったところ、その分布は気団分布と極めてよく対応することが明らかになった。そこでこれとは別に日本国内の高層観測地点20地点について、逆転層の出現高度のほかに、その厚さや強度の情報も加味してクラスター分析を行い、地域区分をした。その結果、大区分は、北半球で行った区分の結果とよく合致する(北日本・中央日本・西南日本)。このうち、とくに本州・四国・九州の主要部を含む中央日本が4地域に細分される。またそれぞれの地点(地域)において、大気境界層内に出現する接地逆転層をはじめ各種の逆転層・混合層の出現高度や頻度分布は、その地域を蔽う気団の特性を反映して、特徴のある季節性と地域性が見られる。 後者については研究分担者が所属する研究室で行っているレーザーレーダーによる対流圏・成層圏のエアロゾルの観測結果を用いた研究である。本研究では春先に中国大陸から飛来する黄砂をトレーサーとして、大気成層状態を調べた。1986-1988年の春、黄砂のレーザーレーダー観測を実施し、黄砂の鉛直構造と大気の成層状態との関係を明らかにした。また、数値シミュレーションにより、黄砂の3次元的な輸送過程を解明した。 研究成果報告書は、これらの成果の概要をとりまとめ作成した。詳細は未完の部分を補充して印刷論文としたい。
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