第2年次にあたる昭和63年度は、伊勢平野北部を調査対象地域に、自噴井を中心とした被圧地下水の測水調査を実施した。とくに三滝川の中流域を重点的に精査し、被圧地下水の水質・水温特性と比較対照するために、湧水を含む不圧地下水の測水も行った。本地域の地下水は、背斜軸(四日市背斜)の周辺に涵養域を持つことが大きな特徴であり、被圧帯水層への地表水の涵養のあることが考えられる。調査項目としては自噴井の分布に関するさく井業者への聞き取りと現地調査を中心に、確認のできた自噴井については自噴量の測定、さく井年度、深度、自噴量の変化(季節的・経年的)などである。現地では、水温・電気伝導度、pH・RpHの測定を行い、採水を実施した。溶存成分の分析項目は、主要7成分(Cation4成分・Anion3成分)である。地下水の水質に関する既存資料(東海農政局、北伊勢地盤沈下調査会など)についても収集した結果、被圧地下水と不圧地下水の水質には、Na^+とHCO_3^-に代表される明瞭な差異が認められ、溶存成分の濃度と組成の双方に関する地域差が明らかになった。水質の進化の過程におけるこれらの違いは、地下水の滞留時間と密接に関連しているものと考えられる。一方、本地域には湧水を水源とする小河川がみられ、湧出量と水温・水質について、水源からの流下に伴う変化を明らかにした。台地および丘陵部の地下水に対し扇状地の不圧地下水は、被圧地下水の水質組成との差がより一層顕著であり、『降水→地表水→不圧地下水→被圧地下水』の水循環過程における初期的段階の特徴を示した。臨海部の被圧地下水(帯水層は第三紀層)について得られた環境トリチウム濃度の測定結果から、平均滞留時間の最大値は約60年と考えられ、なお資料を補完することによって北勢地域における地下水の涵養過程を定量的に把握し、最終的な目標である水質の形成機構を明らかにする。
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