鈴鹿山脈東麓を南北に走る一志断層系の断層露頭が現われたので、詳しい現地調査を行った。奄芸層群の地層急斜帯の東翼に活断層はあり、地層はほぼ直立している。断層面は高角の逆断層を示すが、地表近くでは低角度になる。この状況は千屋地震断層のトレンチ発掘調査による断層表現と類似している。また、断層変位地形に対応した断層が確認され、地形形成過程の中で断層(運動)の活動史が解明されてきた。 1984年と1988年冬季に行った中央構造線岡村断層のトレンチ調査付近において、さらに3ヶ所で発掘調査を実施した。この調査は地質調査所や広島大学と協同して行われ、地層中がら得られた土器片・木片・腐植土層・火山灰などの年代測定によって、完新世の断層活動史が明らかになってきた。掘削したトレンチの形状は、A)口ないし回字形のもの、B)溝状のもの、C)5つの小トレンチを1本の大溝で繋いだ櫛形のもの、の3つである。A)とC)のトレンチで断層が明瞭に現われ、その走向はN80°E、傾斜はほぼ垂直であることが判った。断層面付近の地層は急斜するようになり、多数の小断層を伴っている。偏平礫の長軸は断層面の走向方向に並んでいる。このような地質現象は主に地形的に推定された右ずれで北落ちの断層運動を支持する。今回のトレンチ調査からは、断層活動期に関して次のような事柄が判明した。1)耕土層を除くと地層は最上部まで切断されているが、この最新活動時期は4〜8世紀の間である。2)数千年前に堆積した地層も複数回の変位を受けているので、活動間隔はおよそ千年程度と推定される。3)1.1〜1.5万年前の地層と数千年前の地層とが顕著な断層面を介して直接しているので、この間に多数の活動があり、それは横ずれが卓越していたことを示唆する。4)右ずれ変位量については、層相や旧流路のずれから検討中であるが、具体的な値は今のところ得られていない。
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