過酸化脂質は、不飽和脂肪酸の酸化で生成し、老化、化学毒、虚血等の過程で組織が破壊される要因の一つである。本研究では、その作用機構、及び各種細胞への影響を明らかにすべく13-L-hydroperoxylinoleic acid(LOOH)のアフリカツメガエル卵母細胞への作用機構を解析し(1〜3)、また、この物質の初代培養神経細胞への影響を調べた(4〜5)。(1)卵母細胞培養液にLOOHを加えると、濃度、時間に依存して膜コンダクタンスが上昇した。また、LOOHの培養液への添加は、培養液に加えたLi^+及び^<45>Ca^<2+>の卵母細胞への取込を増加させた。(2)培養液へFeCl_2を添加しアルコキシラジカルを生成させてもLOOHの卵母細胞への上記の作用を増強させなかった。従ってLOOHの毒性は、その分解により生じるアルコキシラジカルによるものでなく、LOOH自身が膜構造を乱し、コンダクタンスを増加させることが一因である。(3)電気ウナギ発電組織より得たメッセンジャーRNAを卵母細胞に注入して、ニコチン性ACh受容体(nAChR)を発現させた。LOOHは非競合的にAChに拮抗し、nACRの不活性化の速度を速めた。(4)ラット胎児脳培養神経細胞をホールセルクランプして、LOOHを与えた際の膜電流揺ぎのパワースペクトルを求めると、イオンチャネルに特有の形を示さず、従ってLOOHによるコンダクタンス増加はイオンチャネル活性化によるものではないと予想される。(5)大脳皮質、海馬、視床下部初代培養神経細胞の生存率に、培養液に加えたLOOHが与える影響(濃度・生存率曲線)を計測した。LOOHによる生存率低下は、海馬で最大であった。LOOHを3〜7日間与えると加えない場合よりも大脳皮質と視床下部細胞では、濃度10nM付近で生存率が高くなる。これは低濃度では、若い神経細胞の補償能力が、LOOHの害を上まわるためと考えられる。
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