研究概要 |
当初の研究計画のなかで「特異的結合部位を2箇所もつDNAオリゴマーの調整」, 「スキャッチャードプロットから結合部位間の相互作用のエネルギーを導出する方法の確立」に関しては, ほぼ目的が達成された. 特に, DNAオリゴマー2重ラセン試料の調整に関しては, 従来確認が難しかった試料溶液中の1本鎖ヘアピン構造の混入率をHPLCをもちいて簡便に測定する新しい方法を開発した. また, 東京大学大型計算機センターで行ったスキャッチャードプロットの非線型最小2乗法による解析や変形のエネルギー計算の結果を転送して表示するための通信プログラムも新たに開発整備した. 「結合度の測定」と, その結果に基づく「変形伝達距離の決定」に関しては, 所属が変わり実験が中断したために残念ながら計画はかなり遅れてしまった. しかし, マイクロコンピュータ制御の新しいマイクロインジェクター, 新しい分光光度計の開発も完了し, 高精度の測定を今後効率よく行うことが出来るようになった. 特に, 分光光度計に関しては, 吸収のシグナルだけでは困難な低濃度での実験も行えるように, 蛍光も同時に測定できるかたちのものを製作した. また, 温度を変えての測定を行うためのワンボードCPUをもちいた温度プログラマーの製作も行った. X線構造解析によるアクチノマイシンDの3次構造の座標データ, DNAへの結合モデルの座標データは既に発表されている. それらをもとにエネルギー計算をもちいて変形の検討が出来るようにグラフィクスのシステムを新たに開発整備した. 今後は, 今年度に開発整備したものをもちいて結合度の測定を行い, 変形伝達距離の値, 塩基配列依存性, 結合部位間の相互作用のエンタルピーとエントロピーを決定する. その結果をもとに, DNA分子を通しての変形伝達の機構を考察する予定である.
|