研究概要 |
マーカスに始まる電子移動に対する伝統的な理論によると, エネルギー・ギャップΔΕが反応前後の全緩和エネルギーΕrより大きくなると電子移動速度が減少するというinverted regionの存在が予言される. これに対して, 極性溶媒中光誘起分子間電子移動の実験結果は, inverted regionが存在しないことを示している. この矛盾を解決するために, 我々は荷電分子のまわりの極性溶媒は誘電飽和をおこし, 分極座標に対する自由エネルギー曲線が中性分子のまわりのそれに比して非常に大きいと仮定し, 上記inverted regionが存在しなくてもよいことを理論的に示した. 我々は, 上記エネルギー曲率のちがいが実際におこっていることを確かめるために, Monte Carlo simulationの計算を行った. モデルとして, 溶質・溶媒両分子を半径2.2〓のhard coreをもつ球体を仮定した. 溶媒分子の双極子能率を2デバイとした. その結果, 電荷eに荷電した球状分子に接触する溶媒分子は実際に強い誘電飽和を行っていることを見出した. 溶質が荷電状態と中性状態での自由エネルギー曲率の比は約8になった. この結果はエネルギー・ギャップ則についての実験データを説明するために用いたパラメータの値と近く, 曲率変化を考慮する理論に対して物理的根拠を与えたことになる. 誘電飽和層の大きさ・誘電飽和層の緩和エネルギーの大きさを計算機シミュレイションから求めるのは今後の問題である.
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