1.組み替えDNAによるバクテリオファージT3尾部タンパク質(テイルファイバー)の大腸菌内での発現。ファージ粒子からのテイルファイバータンパク質の調製が再現性・量の関係から大変困難であるので、このタンパク質の遺伝子17を含む組み替えDNAを用いて、大腸菌によるテイルファイバーの直接発現を試みた。前年度の試みでは遺伝子18.5の前半部迄含むようなファージDNAの制限酵素断片を用いていたが発現効率が大変悪かった。それでクローン化したこのDNA断片を更にHpaーIで限定消化して遺伝子16及び18.5を除いたものを作り、発現ベクターpNT45に組み込み、このプラスミドで大腸菌をトランスフォームした。マーカー再生試験で遺伝子17を持つことが判明した39コロニー中約半数のものに遺伝子17の産物gp17の大量発現が認められた。gp17は封入体として得られた。 2.テイルファイバータンパク質の変性と生物活性を持つ三量体構造の再生。封入体として得られたgp17をグアニジン塩酸塩で完全変性させて可溶化し、5M尿素で希釈後、含グリセロール緩衝液に透析するとファージ内に存在するのと同様な三量体構造となることが明らかとなった。これを更にイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過法等によって精製した。このものはテイルファイバーを欠くT3ファージ変異株を補って感染性ファージを与えること、円偏光二色性などの分光学的性質から、生物活性を持つ完全なテイルファイバーが再生したと結論される。 3.部分消化によって3本縒りαーヘリックスのコイルドコイル領域をテイルファイバーから単離する試みは、酵素の選択か条件の選定に問題がある故か未だに低収量の段階にあり、物理化学的実験に至っていない。この部分を組み替えDNA法で直接調製する試みが必要かもしれないと考えている。
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