研究概要 |
ミオシンATPase反応中間過程は, 分光学的方法で検出されるミオシン分子の局所的な構造変化の他に, 大きな反応熱とプロトンの出入りをともなっていることが知られている. しかし, これらの変化の間の反応論的共役あるいは相関の詳細はまだ明らかではない. この問題は, 筋収縮において, ATPの化学エネルギーがミオシン分子の構造変化として力学的仕事に利用される形に変えられる分子機構を解明する上できわめて重要である. 本研究の目的はミオシンATPase反応に伴う熱変化とプロトンの出入りを同時測定することによって, 中間過程の熱力学的特徴と反応機構との相関をつけることである. 本年度は, まず本研究費で購入したFET pH測定装置を, すでに研究代表者が開発した筋肉熱産生測定用の小型熱電堆を用いたストップトフロー熱量計へ組み込むことを検討した. FET pHセンサは先端部の直径が約1mmなので, ストップトフロー装置の観測室に容易に組み込むことができた. しかし, pHシグナルに大きな雑音が入るため, センサおよび増幅器の電磁遮断を行った. その結果, 30nmol程度のプロトンの出入りを不感時間10ミリ秒(ms)で測定できるようになった. 次に, ミオシンサブフラグメント(SF-1)とATPの相互作用にともなうプロトンの出入りの測定を25°Cおよび15°Cで行った. 25°C, pH7.0では, プロトンのburstが見られるが, ほとんど不感時間内に完了してしまう. しかし, 温度を15°Cに下げると, プロトンのburstは遅くなり, flow-stop後, およそ40msぐらい持続するようになる. いずれの温度でも, ミオシン生成物複合体からの無機リン酸の解離に対応すると考えられるきわめて遅いプロトンの遊離がburstの後に認められる. これらの結果から, 観測されたプロトンのburstはミオシンに結合したATPの加水分解に対応すると考えられるので, 63年度にはpHと熱変化の同時測定によって確認することができるよう装置をさらに改良する.
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