研究概要 |
61年度には, すでに成人40例の標的臓器・組織中水銀(総水銀とメチル水銀)蓄積濃度を測定しているので, この年度では水銀以外の重金属類(鉛, カドミウム, マンガン, クローム, 銅など)の人体内蓄積濃度を測定した. 1.62年の法医学的資料(近畿大学法医学教室と大阪府監察医事務所の急死解剖例)のうち, 成人40例(40〜50才の男女各20例づつ)から, 重金属検索の標的臓器として大脳, 小脳, 心筋, 肺臓, 肝臓, 腎臓およ肋骨などを採集した. 2.採集した臓器・組織片の灰化処理を行った後, 前回同様の測定条件により偏光ゼーマン原子吸光光度計で測定した. 心, 肺, 肝, 腎, 肋骨の鉛, 大脳, 心, 肺, 肝, 腎のクローム, 大脳, 心, 肺のマンガンおよび心のカドミウムはフレームレス装置付原子吸光で測定した. 肝, 腎, のマンガンとカドミウム, 大脳, 心, 肺, 肝, 腎の銅は有焔原子吸光で測定した. △灰化重量当たりの濃度を湿重量に換算すると, それらのmean(μg/g)はCd(心:0.18, 肝:5.57, 腎:73.5), Pb(心:0.006, 肝:0.076, 腎:0.021, 肋骨:2.37), Mn(大脳:0.26, 心:0.24, 肝:1.25, 腎:0.91), Cr(大脳:0.008, 心:0.015, 肝:0.019, 腎:0.016), Cu(大脳:4.33, 心:3.02, 肝:8.28, 腎:2.76, 膵:1.59)である. 3.62年の蓄積濃度と10年前(1977年)の成人72例および5年前(1982年)の成人43例の成績とを対比して重金属の人体汚染レベルの経年的変動を検討した. 10年前よりも高値を示すものは肝と腎のCdであり, 明らかな低値を示すものは心・肝・腎のPbとCrである. やや低値を示すものは肋骨のPbおよび肝と腎のMnである. ほぼ同じレベルで推移しているのは, 心のCd, 大脳と心のMnおよび大脳・心・肝・腎のCuである. 以上のような金属類のヒト汚染指標の変動から, 1991年にも同様の検索を行う予定である.
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