研究概要 |
細胞間情報伝達に糖タンパク質や糖脂質に由来する糖鎖が極めて重要な役割を演じていることが近年明らかになりつつある. 本研究では細胞間情報伝達における糖鎖構造の重要性を分子レベルで解明し, 得られた情報を基に細胞特異性医用材料の開発を目的とした. 従来から, リポソームを天然由来多糖で被覆することによりその構造強化を達成し, しかも多糖の種類により細胞認識性を付与し得ることを報告してきた. 本年度は, この細胞特異性を人為的に制御する目的で天然多糖の末端糖鎖を化学変換し, 細胞認識素子としてガラクトサミン, シアル酸, マンノースー6-リン酸残基を有する多糖を合成し, その被覆リポソームの細胞特異性について検討した. 肝実質細胞にはガラクトースを認識するレセプターが存在することが知られている. そこで肝細胞との特異的相互作用を期待して, ガラクトサミン残基を有する多糖で被覆したリポソームをマウスに静注して生体組織分布を調べた. ガラクトサミン修飾系は, 明らかに肝臓への集積が増加した. 一方, シアル酸を有する多糖で被覆したリポソームでは, 単球および好中球への取り込みが顕著に抑制された. この結果は, 網内系を回避して血中を微小循環する新たなリポソームの開発に向けて重要な示唆を与えるものである. 線維芽細胞にはマンノースー6-リン酸に対するレセプターが存在する. マンナンを部分的にリン酸化した多糖で被覆したリポソームのマウス線維芽細胞(L-細胞)への特異性を検討した. その結果, L-細胞への特異的結合の見られたことはもち論の事, このリポソームを用いたL-細胞の無血清培養でも血清存在時よりも高い増殖性がみられた. これは糖鎖の認識機能を応用した新しい型の培養材料として注目できる. 以上より天然多糖の末端糖鎖変換を行い細胞認識素子を導入することで, その被覆リポソームの細胞認識性を制御し得る事が明らかとなった.
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