研究概要 |
受容体の研究はまだ歴史が浅く, これを工学的に利用するためには, まず受容体の構造と機能との関連という基礎的課題を解明しなければならない. 我々は世界に先駆け, ヒトインスリン受容体cDNAのクローニングを行いその一次構造を決定した. インスリン受容体はαとβサブユニットよりなり, 通常はα_2β_2の構造をとると考えられている. インスリンがαサブユニットに結合すると, βサブユニットのチロシンキナーゼが活性化され, それがインスリンの情報伝達発現に関与していると考えられるが, 明らかでなかった. 我々はヒトインスリン受容体cDNAを使い, 異種動物細胞内で活性あるヒトインスリン受容体を発現させることに成功した. さらに遺伝子工学の手法を使い一部アミノ酸を人工的に変えた変異受容体を作製し, インスリン情報伝達発現にはβサブユニットのチロシンキナーゼ活性が必須であることを証明した. 次に新しい機能をもつ受容体作製の試みとして, インスリン受容体と非常に構造の類似しているインスリン様細胞増殖因子(IGF-1)受容体のβサブユニットとインスリン受容体のαサブユニットをもつ人工キメラ受容体をcDNA上で作製し, 動物細胞で発現させたところ,インスリンがキメラ受容体αサブユニットに結合することによりIGF-1受容体βサブユニットが活性化され, 従来とは異った情報が伝達されることが明らかとなった. このことから, 2つの異なる受容体のキメラ分子を作ることにより, ライガンドとは異なる情報を細胞内に伝達することが可能となった. 今後は, 受容体の基本構造のもう1つの重要な点であるライガンド結合部位を決定する. また工学的に利用可能にするため細胞工学の手法を用い受容体を大量生産する.
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