研究概要 |
有機伝導体, 赤外反射スペクトル, 結晶構造連続ポテンシャル場と電気伝導性との関連を明らかにするため, π-共役系を有し一種の高分子錯体といえる導電錯体を取り上げた. 特に非対称分子を用いた導電錯体では, 分子の向きを制御することにより, 種々の連続ポテンシャル場を構築することができる. 本年は非対称分子DMETの錯体の構造(連続ポテンシャル場)と電気伝導の関係を調べた. 錯体の単結晶(DMET)_2Xの作成は定電流を用い, 電気化学的方法により行った. 正八面体形の対イオンを持つPF_6塩は300Scm^<-1>とかなり高い室温電気伝導度を持つが, 半導体的な温度変化を示す. 20K付近で反強磁性転移と考えられる相転移を起こす. 対イオンの形が正四面体形のBF_4塩は室温では電気伝導が金属的な温度変化を示すが, 37K付近で相転移を起こし, 絶縁体になる. 直線形の対イオンをもつAu(CN)_2塩は低温まで金属的な電気伝導性を示すが, 25Kで絶縁体へと転移する. しかし圧力を加えるとこの金属-絶縁体転移が抑えられ, 5kbar, 0.8Kで超伝導転移を起こす. I_3塩の結晶構造はAu(CN)_2錯体とよく類似しており, 電気伝導は低温まで金属的な温度変化を示し, しかも0.47K以下で超伝導体となる. AuBr_2塩には多形が存在し, 一つの結晶形のものはI_3塩と構造が類似しており, 低温まで金属的な電気伝導性を示す. ほかの結晶形のものは, 結晶の外形や格子定数の値からAu(CN)_2やI_3塩とはかなり異なる構造をしていると考えられる. 電気伝導は室温では半導体的であるが, 低温では金属的な電気伝導を示す. このような半導体から金属への転移は高伝導性有機物で観測されるパイエルス転移とは逆であり興味深い. 1.5kbarの圧力を加えると, 相転移の温度は少し低くなり, 1.0Kで超伝導転移を起こす. また常圧で1.9Kで超伝導を示す多形も得られている. DMETの7種類の塩, Au(CN)_2, AuCI_2, AuI_2, I_3, IBr_2, AuBr_2(二種)で超伝導を発見した.
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