研究概要 |
protein kinase Cの機能の解明は, 今日医学生理学の重要課題の一つであり, ことに細胞成長因子との共役による細胞増殖の調節機構に関心が集まっている. 最近, 生化学的および分子生物学的解析により本酵素には分子種多様性が存在することが明らかとなり, protein kinase Cには種々の異なる情報を伝送する多様性が存在することが推測されている. 本研究ではprotein kinase Cの多彩な機能の物質的基盤を明らかにするため, 本酵素の構造解析, 組織特異性および酵素化学性質の検討を行なった. その結果, cDNAの解析から6種のprotein kinase Cの構造を決定し, その共通構造を明らかにした. 同定されたクローン, α, β, γ, δ, ε, ζは異なる遺伝子に由来し, このうちβ種にはスプライスの相違による異なるクローンβI, βIIが存在する. また, 各cDNAを培養細胞中に発現させ, それぞれの分子種をHPLCによる分離の結果, 構造の異なる各分子種のprotein kinasecの単離に成功し, それぞれの分子種の酵素化学的分析を行なう方法を確立した. 一方, 各分子種に対する抗体を用いた組織化学的解析を行なった結果, 少なくともα, βI, βII,γ種のprotein kinase Cについてはそれぞれ特有の分布を示しており, ことにγ種は中枢神経系のみに存在し, α種は全ての臓器, 細胞に発現していることが示された. また, 従来EGF受容体がprotein kinase Cによるリン酸化によりdown-regulationを受けることが知られているが, 本酵素のうちα種がEGF受容体に高い親和性を示すことが明らかとなった. 従って, 多種のprotein kinase Cはそれぞれ存在部位が異なっており, 特有の生体情報を伝達しているものと予想される. 次年度以降は, 本年度に得られたprotein kinase Cの構造, 組織特異性をもとに, 本酵素の標的タンパク質, 膜機能の調節, 遺伝子発現の調節等, protein kinase C各分子種の機能の解析を行なう予定である.
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