シアロ糖脂質(ガングリオシド)及び有機合成類似体による制癌に試み:抗白血病作用の特異的分子機構の解析

1987 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 62614531
• 研究機関: 自治医科大学
• 研究代表者: 斎藤 政樹 自治医科大学, 医学部, 教授 (60012762)
• 研究分担者: 元吉 和夫 自治医科大学, 医学部, 助教授 (80137702) ; 中村 充 自治医科大学, 医学部, 助手 (20198237) ; 野尻 久雄 自治医科大学, 医学部, 助手 (70180742) ; 北川 誠一 自治医科大学, 医学部, 講師 (50133278)
• キーワード: 天然シアロ糖脂質ガングリオシド / 合成シアロ糖化合物 / 糖鎖構造特異性 / 分化方向決定機序 / 分化誘導現象 / クローン増殖

研究概要

1)諸材料より従来からのカラムクロマト法と新しく改良した高速液体クロマト法を応用し, ガングリオ系及び長糖鎖ネオラクト系分子種を充分量精製した. 完全有機合成のガングリオシドGM3, シアロパラグロボシド, 非天然体シアロ糖化合物は協同研究者の協力を得て調製した.
2)白血病細胞を化学誘導剤で単球マクロファージ系へ分化誘導すると, ガングリオシドGM3が著増, 一方これを外来性に骨髄単球系白血病細胞(株)に賦与すると, 増殖抑制と単球マクロファージ系分化誘導が観察される. この発見の類推から, 顆粒球系分化で有意に増加するネオラクト系ガングリオシド分子種混合物を浮遊培養, 系に添加すると, 白血病細胞の増殖抑制と同時に顆粒球系分化が観察された. ガングリオシド糖鎖構造が分化方向決定に基本的な役割を担っている可能性がある. このことは合成シアロ糖化合物のシアル酸結合部位の立体構造と分化誘導活性・分化方向との相関からも裏付けられる.
3)シアロ糖化合物の化学構造は諸種クロマト, 核磁気共鳴分析, 質量分析等の機器分析及び最近発達した特異抗体を使う薄層クロマト免疫染色法で決定された. ガングリオシドと細胞膜との相互作用を解析するため蛍光色素及び放射性同位元素ラベルのガングリオシドの調製に成功した. この研究の一環として蛋白性分化誘導因子及び遺伝子構造が解明された造血因子の分化誘導活性を解析した.
4)マイクロマニピュレーターを設置, 白血病性幹細胞に対する糖脂質分子の作用機作を解析できるクローン増殖実験系を設定し, 合成シアロ糖化合物の中に天然体より分化誘導活性が高く且つ低毒性の物質を見出した.
5)シアロ糖脂質パターンは血液細胞の分化マーカー, 系統識別マーカーとなり得る. 白血病細胞の増殖, 分化の調節機構にフィードバック作用を持つ膜成分(リン脂質, 脂肪酸)及び液性成分(インターロイキン1, コロニー刺激因子)の産出能に関する特性を明らかにした.

研究成果

• [文献書誌] Furukawa,Y.,Ohta,M.,Kasahara,T.,Miura,Y.and Saito,M.: Cancer.Res.47. 2589-2593 (1987)
• [文献書誌] Suda,J.,Eguchi,M.,Akiyama,Y.,Iwama,Y.,Furukawa,T.,Sato,Y.,Miura,Y.,Suda,T.and Saito,M.: Blood. 69. 508-512 (1987)
• [文献書誌] Naito,M.,Kudo,I.,Nakagawa,Y.,Waku,K.,Nojiri,H.,Saito,M.and K.Inoue: J.Biochem.102. 155-162 (1987)
• [文献書誌] Furukawa,Y.,Ohta,M.,Miura,Y.and Saito,M.: Biochem.Biophys.Res.Commun.147. 39-46 (1987)
• [文献書誌] Furukawa,Y.,Ohta,M.,Miura,Y.and Saito,M.: Nrit.J.Haematol.65. 11-15 (1987)
• [文献書誌] Mori,M.,Suda,T.,Suda,J.,Miura,Y. and Saito,M.: Acta Haematol.Jpn.50. 59-64 (1987)
• [文献書誌] 斎藤政樹 (編集:高久史磨, 青木延雄, 仁保喜之, 長尾 大): "Annual Review 血液 1988" 中外医学社, 東京, 18 (1988)
• [文献書誌] 斎藤政樹 (村松正実 編集): "医科分子生物学" 南江堂, 東京, 12 (1987)