電子スピンエコー法を応用して、固体内の常磁性種のESRスペクトルを高分解能で測定する手法を開発した。その原理を次に述べる。固体内の常磁性種のESRスペクトルの共鳴磁場は、静磁場に対する常磁性種の配置および不対電子に対する常磁性種内核配置に依存する。このため異なる配置にある常磁性のスペクトルは互いに重なり合い、分解能が悪くなる。配置が異なれば常磁性種緩和速度も変化する。電子スピンエコー法ではマイクロ波パルスで常磁性種を励起したのち一部のスピンを緩和させ、一定時間経たのちの未緩和の常磁性種のみを観測する。観測までの時間が充分長いと緩和速度の早い配置にある常磁性種は観測されず、遅い配置にあるもののみが選択的に検出されることとなる。結極電子スピンエコー法では様々な配置にある常磁性種のうちの一部の配置にあるもののみを観測することになるから、この方法で得たESRスペクトルは分解能が上昇する。 この手法をアルカン結晶のアルキルラジカルに適用したところ、ESRスペクトルの分解能上昇が確認された。また分解能上昇の原因はラジカル内βプロトンの熱運動にあることがわかった。 さらにループギャップ共振器を用いた簡便かつ安価な固相高分解能ESR測定用電子スピンエコースペクトロメーターを開発した。
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