研究課題
前年度から気象条件計測を行っている三ケ所のフィールド(奈良市、奈良国立文化財研究所・犬山市、博物館明治村、小樽市、旧日本郵船小樽支店)に加えて、今年度から山形市・旧県庁でも計測を行っている。また、関連調査として福島県小高町の史跡・薬師堂石仏および平泉町の中尊寺における測定結果もあわせて検討している。これら各フィールドにおける温度、湿度の計測結果と、当該地のAMeDASのデータ、および実際の凍結劣化の出現状況を総合して解析、検討した結果として現在までに得られている知見は次の通りである。・石材の表面最低温度は、外気最低温度よりも3〜4℃低い値となる。・一般に石造物の周辺、特に上層部においては、その外気最低温度は、AMeDASデータよりも1〜2℃低い値となる。・従って、AMeDASデータが0℃に近い値を示した場合、石造建造物の石材はその表面温度が凍結劣化が起こるに充分な低温(-4℃)以下となる。・石材の表面温度が-4℃以下となった場合の石材内部の温度分布、即ち、表面からの深さと石材温度との関係、更には、これに及ぼす含水量の影響について実験的に検討した。その結果、石材の表面温度が-4℃の場合で、その石材が湿った状態の時は、5cmの深さまで-2℃以下となり、完全に凍結劣化を受けることが予想された。外部からの処理で石材中に撥水剤を5cm深さまで浸透させることは不可能であり、常に湿った状態にある石材の凍結劣化を撥水処理で防止することは、理論的に不可能であると判断された。石材の透水性と凍結劣化との関係について実験的に検討した結果、同じ空隙率の石材でも、空隙の分布が均等で透水性が大きい程、凍結劣化が起き易いことが判った。