本研究では単一細胞における細胞内カルシウム濃度とその経時変化を一定膜電位のもとで測り、細胞内より流入する成分と細胞内小器官より放出、取込みされる成分にわけて解析する。このためにまず測定装置を試作し、適当なモデル標本を開発してその基本的性質を明らかにしつつ装置の改良を重ねていく方針をとった。 倒立顕微鏡(日本光学、TMD)を改造しキセノンランプ、紫外用フィルターを装着して測定装置を試作した。光源部の振動が大きな障害となったが、空気圧式防振台(明立精機、AD-107)を使用し光源台を切り離す事で解決した。昭和62年度には主にカルチトニン分泌細胞をモデル標本に選び解析した。本細胞は外液のカルシウムイオン濃度のわずかな上昇によりホルモン分泌が生じる。家鶏の鰓後腺をコラゲナーゼ処理して容易に本細胞を遊離し得た。Whole-cell法で調べるとNa^+とCa^<2+>の両イオンの流入を伴う活動電位が生じ、これがホルモン分泌の引き金となることが示唆された。更に詳しく本細胞のイオンチャネルの性質を解析したところ、Na^+チャネル、Ca^<2+>チャネルの他に遅延整流性のK^+チャネルの存在が判明した。遊離標本には本細胞の他に支持細胞や未分化細胞と思われるものも混入していた。これらの細胞は活動電位を発生せず、また抗カルチトニン抗体を用いて蛍光染色すると陰性か弱陽性であった。 昭和63年度には主として正常ヒト胎児由来の株化肝細(HuL-1)をモデルに選び研究した。細胞からWhole-cellの記録をし、ACh(10μM)を局所投与すると過分極が生じた。-40mVに膜電位固定をしAchを投与すると外向き電流が誘発され、保持電位を深くすると約-80mVで反転した。Ca^<2+>感受性蛍光色素Fura-2を細胞に負荷してAchを投与すると、電流誘発時に細胞内Ca^<2+>濃度上昇が生じた。
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