昭和62年度の研究において、ラットの運動神経終末端をノマルスキー顕微鏡下で直視し、神経終末端に微小電極を密着させてルーズパッチ法により終末端局所のイオン電流を記録することが可能となった。神経刺激によって発生した興奮は運動神経終末端に能動的に伝導し、その局所に内向きのテトロドトキシン感受性のNa電流が記録された。この内向きNa電流に続き外向きK電流も観察された。この神経終末端のK電流は終末端より上流の運動神経線維の興奮による受動的脱分極によって誘発すると従来は仮定されていた。しかし、運動神経終末端の局所にテトロドトキシンを作用させて局所電流の変化を経時的に観察すると、先ずNa電流の減少が見られ、その減少が最初の約20%にまで達すると、外内きK電流はNa電流に先行して消失した。この時、運動神経線維の興奮に由来する電気緊張性電流には変化が見られなかった。したがって、終末端のK電流の発生は終末端の興奮に伴うNa電流の発生を前提としていると結論される。運動神経終末端の能動的興奮伝導をさらに検討するために、坐骨神経伝導を慢性的にテトロドトキシンで局所的にブロックし、下肢の麻卑筋に運動神経終末端に発芽を形成し、その局所のイオン電流を記録した。神経終末端から伸展し単独の走向を示す分離した発芽部位からもテトロドトキシン感受性の内向きNa電流が観察された。昨年度の研究において、不動化した筋に見られる運動神経終末端の発芽形成はカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の投与によって抑制されることが見いだされた。運動神経終末端の発芽形成に伴って神経筋接合部における伝達物質の放出量は増加し、したがって、不動化筋の神経筋伝達の可塑的変化は終末端の発芽形成に由来すると仮定されている。しかし、CGRPによって不動化筋の発芽形成を抑制しても、神経筋伝達の亢進は抑制されなかった。
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