急性心筋梗塞、不安定狭心症に対する冠動脈造影法の進歩から心筋梗塞急性期の病態が明らかになってきた。冠動脈内血栓形成と冠動脈攣縮が本症発症の2大要因であることが明らかになってきた。 プロスタサイクリンは血管壁で産生される生理活性物質であり不安定であるが強力な抗血小板凝集作用と抗収縮作用を有している。この不安定なプロスタサイクリンを安定化する物質として我々は血清中の分子量3万の蛋白質を見出した。そしてこの因子はアミノ酸配列を決定したところHigh Density Lipoprot ein(HDL)の表面蛋白であるApolipoprotein A-I(Apo A-I)であることが明らかになった。このことから従来抗縮状硬化作用があるといわれてきたHDL、Apo A-Iの作用機序の1つがPG J_2(プロスタサイクリン)の安定化である事が明らかになった。そして本研究において我々はApo A-Iに対するモノクローナル抗体を開発することに成功した。これを用いて心筋梗塞の発症機序について検討した。 健常人10例、狭心症11例、不安定狭心症10例、心筋梗塞11例の4群で検討した。心筋梗塞な発症から3、4±1.5時間の急性期、77±14時間の悪急性期に検討した。狭心症においてはPGI_2安定化因子活性とApo A-I値は共に正常値にくらべて低かった。最も因子活性の低かったのは不安定狭心症と急性期心筋梗塞であった。これには血中のApo A-I値の低下と共にApo A-IIが増加し、HDL表面でApo A-Iを追い出すためと考えられた。 以上の事から本研究においてApo A-I、PGI_2安定化因子のモノクローナル抗体が開発されて心筋梗塞の発症機序の一端が明らかになった。
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