昭和62年度に完成した測定システムを用いて牛膝関節軟骨と牛尾椎々間板を試料として、軟骨組織内の水分子の'H-NMR緩和時間と軟骨基質の動的粘弾性率の測定を行なった。牛膝関節の全層軟骨においては、水分含有量に依存して'H-NMR緩和時間と動的粘弾性率は変化した。軟骨試料に一定荷重下での動的疲労試験を行なった結果、軟骨試料中では水分移動が生じて動的粘弾性率が増大し、一定時間後にプラトーに達することが認められた。この場合に移動した水分は基質外へ浸出し自由水分画に属する'H-NMR緩和時間をとる。このため基質内の水分子の'H-NMR緩和時間は減少するが、全体として自由水が増加するため観測される'H-NMR緩和時間は増大したと考えられた。牛尾椎々間板の髄核を摘出し、髄核内のグリコサミノグリカン(GAG)含有量を変化させて、髄核内の水分子の'H-NMR緩和時間、複素弾性率、水分含有率の関係を求めた。正常な髄核においては'H-NMR緩和時間と複素弾性率は直線的相関を示し、'H-NMR緩和時間の増大とともに複素弾性率が低下することが認められた。しかし、GAGの低減した髄核組織では'H-NMR緩和時間と複素弾性率の関係は非直線的であった。これは相対的に増加したコラーゲンの物理特性が複素弾性率に大きく影響したためと考えられた。髄核基質においてGAGは水分子を基質内に保持し、水分子の運動性を制限することによって基質の粘弾性に関与していると考えられた。変性に伴ないGAGが減少した軟骨基質では水分子の運動性の制限が困難となり、基質の粘弾性が低下していくことが示唆された。この力学的特性の劣下はMRIによる画像変晃としてとらえることが可能であると考えられた。
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