'H-NMR法と波動粘弾性測定法を軟骨組織に適用し、軟骨基質内水分子の運動性と基質の動的粘弾性の関係を明らかにすることを目的として、以下の測定システムの試作を行なった。日本電子製FSEー60E型NMR装置をシステムの基盤として、本装置に粘弾性測定装置を組み込み、両者をオンライン化した。粘弾性測定は岩本製作所製VESーFIII型粘弾性スペクトロメーターを改造し、プローブ部分はNMR磁石内に設置するため力学的伝達装置を縦型配置として、設計し試作した。弾弾性測定用加重器とNMR用RFパルス発振器を制御するためにコンピューターを増設し、制御用プログラムを開発した。 牛膝関節軟骨、牛尾椎間板髄核を試料として軟骨組織内の水分子のNMR緩和時間と動的粘弾性率の関係を求めた。関節軟骨においては水分含有量に依存してNMR緩和時間と動的粘弾性率が変化し、動的疲労により基質内の水分が基質外へ浸出するに伴ない動的粘弾性率が増大した。椎間板髄核においても関節軟骨と同様に水分含有率に依存してNMR緩和時間と動的粘弾性率は変化した。これらの軟骨基質においてNMR緩和時間と動的粘弾性率は直線的相関関係を示したが、グリコサミノグリカンが減少した髄核では直線的関係は失なわれ、NMR緩和時間の減少に伴ない動的粘弾性率は急激に増大した。グリコサミノグリカンの減少による相対的なコラーゲン量の増加のため、コラーゲンの物理特性が動的粘弾性率に反映されたと考えられた。軟骨基質の水分子の運動性は主としてグリコサミノグリカンにより制限され、基質の粘弾性を決定するのにグリコサミノグリカンは重要な役割を果していることが示された。基質の粘弾性特性の劣下はMRIによる画像変化としてとらえることが可能であると考えられた。
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