我々は、これまでにミオシン軽鎖キナーゼ阻害剤として、ATPに競合的に拮抗し且つ、ATPの結合部位あるいはその近傍に結合してミオシン軽鎖キナーゼの活性を阻害するML-9を報告しているが、新らたに甲状腺ホルモンであるlーサイロキシンがカルモデュリンに競合的にミオシン軽鎖キナーゼの活性を抑制することを見い出した。放射性同位元素である^<125>Iでラベルしたサイロキシンを用い、ミオシン軽鎖キナーゼへの結合部位を調べた結果、蛋白質分解酵素であるキモトリプシンや黄色ブドウ球菌のV_8プロテアーゼでミオシン軽鎖キナーゼをフラグメントに切った状態でカルモデュリン結合部位を含んだフラグメントに[^<125>I]ーサイロキシンが結合していることが明らかとなりサイロキシンは、カルモデュリン結合部位もしくは、その近傍に結合しミオシン軽鎖キナーゼの活性を阻害していることが明らかになった。作用機序の異なる2種類のミオシン軽鎖キナーゼ阻害剤、ML-9とサイロキシンをアフィニティーリガンドとしてミオシン軽鎖キナーゼのアフィニティー精製を試みた結果、ニワトリ砂のう筋より平滑筋ミオシン軽鎖キナーゼの精製にML-9アフィニティークロマトグラフを用いて成功し、また非筋細胞である血小板からサイロキシンアフィニティークロマトグラフを用いて微量のミオシン軽鎖キナーゼの精製に成功した。ミオシン軽鎖キナーゼは、Aキナーゼによって1モル当り2モルのリン酸基が導入されることが知られているが、カルモデュリン存在下ではAキナーゼによるリン酸基の導入は1モルに減り、カルモデュリンとサイロキシンの共存下では、2モル導入されることから、Aキナーゼによる2モルのリン酸基の導入のうち1モルは、カルモデュリン結合部位に導入されるということがサイロキシンを用いることによって確認された。
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