脳の情報処理の研究は、神経化学及び神経生理学を中心に盛んになりつつある。しかし、前者の場合、物質の同定は可能であっても、その産生細胞や標的細胞の正確な決定は困難であり、また、後者の場合、1つの神経細胞に出入りする電気的情報変化は追跡できても、微小電極を用いて多数の細胞群を同時に取り扱うことは不可能である。脳が多数の神経細胞系として機能していることを考えるとき、我々は、この多細胞ネットワークを同時に、空間的に解析することこそ脳の情報処理の研究に本質的な役割を果たし得ると確信する。このような解析を可能にするため、まず、培養細胞系を確立した。これはニワトリ胚の終脳細胞の初代培養系で、様々な工夫をこらして、無血清培地で3週間以上培養が可能になった、培養期間が約5日以上になると終脳細胞は、神経繊維を伸ばし、互いに接触するようになり、また、伝達物質の1つであるアセチルコリンの合成酵素の活性も上昇する。このような培養系ではシナプスが形成されていることが期待され、実、別のグループの結果では電子顕微鏡観察からシナプスの存在を明らかにした。このような培養脳神経系の電気的活動を2次元的にとらえるために倒立型蛍光顕微鏡と高感度カメラを組合せた測定系を作製した。文献的には、100mVの膜電位変化に対して10%以上蛍光変化をする膜電位感受性蛍光色素が存在するため、1%程度の蛍光変化をとらえることが可能なこのシステムで十分目的を達し得る。現在入手できた様々な色素について、その特性、細胞に対する毒性を調べたが、この系に対してその程度の相対蛍光変化を示すものはなかった。今後は、このシステムの感度をさらに向上させて、より微弱な蛍光変化に対応させる計画である。その第一段階として、フォトダイオードによる記録を試みており、そのための光学系等の見直し、改善を行っているところである。
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