研究概要 |
本研究では、腎細胞癌と家族性大腸ポリポーシス(FPC)における発癌過程に、発癌抑制遺伝子が関与している可能性を検証することを目的として、患者の正常体細胞と腫瘍細胞における欠失型突然変異を細胞遺伝学的及び分子遺伝学的手法を用いて検索した。 (1).酵素処理法と短期培養法により、非家族性腎細胞癌31例の染色体解析を行った。その結果、腫瘍の進行度及び組織・細胞型に関わりなく、19例(61%)にNo.3染色体短腕(#3p)の部分欠失(単純欠失、不均衡転座による)が観察され、3p14-p21の共通欠失領域が認定された。他にNo.7染色体のトリソミー、X又はY染色体の消失が高頻度に(それぞれ26%、39%)認められた#3pに座位する2種のDNA probe(c-raf,D3S6)によるヘテロ接合性消失(LOH))の検索を6例について試みたがいずれも正常体細胞ではホモ接合型であったため有意な知見は得られなかった。特に#3p異常がみられない腫瘍についての検討が急務である。 (2).FPC患者に発症した大腸癌5例について、原発組織とヌードマウス移植細胞を用いて染色体解析に成功した。多数の構造異常のうち、#17pと#18のモノソミーが3例ずつに認められ、これまでの多型性DNA probeによるLOH解析結果を裏づけた。FPC遺伝子が座位する#5qの構造異常は認められなかった。また、3症例由来の腺腫ポリープ多数の培養にも成功し、#7トリソミーが頻発することも確認された。腺腫と腺癌におけるこのような染色体解析は、FPC癌の多段階発症を解明する上で有力なアプローチと考える。(3).FPC患者5例と精神遅滞を伴うポリポーシス患者1例の培養リンパ球を用い、#5qの高精度バンド解析を行ったが、微小な染色体欠失を認定するには至らなかった。先天性の微小欠失症例に由来した体細胞はFPC遺伝子の分離・同定の研究過程で有用な試料となることが期待されるので、その探索は今後も重要である。
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