抗腫瘍免疫応答に関与するT細胞の抗原受容体(TcR)イディオタイプ(Id)を介する調節機序を解析する第一歩として抗TcR Id抗体を作製しその機能解析を行った。用いた腫瘍は(BALB/c×c57bL/6)F_1(CB6F_1)由来の紫外線誘発線維肉腫UV♀1であるがこれに特異的な同系CTLクローン10B-5を樹立した。10B-5のTCR Idに対する抗体を作製するためこのCTLクローンを同系CB6F_1に頻回免疫した結果、20匹中18匹に細胞障害活性を阻止する抗体の出現をみた。また他のCTLクローンに対しても免疫血清を得たがその活性は個々のクローンに特異的(clonoty pic)であった。10B-5免疫マウスよりモノクロナール抗体N1-56を得たが、この抗体はCTLクローン10B-5に対し、(1)その特異的細胞障害活性を阻止する。(2)IL-2存在下で細胞増殖を刺激する(3)表面蛋白の免疫沈降により非還元状態で90kd、還元状態で40〜45kdの所謂TCRのα鎖、β鎖に相当する蛋白を沈降させる等の点から考えてNI-56はCTLクローン10B-5のTCR Idを認識していることが示された。しかしこの抗体は正常或いはリンパ腫リンパ球と全く反応しない他UV♀1に対する他の特異的CTLクローン及びMLTC細胞とは全く反応しない点から考えて非常に頻度の低い所謂 private Idと考えられる。 以上の研究の結果はTCR Idに対する抗体が全て同系の組み合わせの下で出現すること、従ってもっとも生理的な条件下での実験系を設定することが可能であることを示している。Id-抗Idによる調節機序を解明するためのIdとしてはprivate Idよりもより高頻度に出現するpublic Idの方が望ましいが、我々は後者の系も他の腫瘍について見出しており現在解析中である。
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