ヒトがん患者から分離直後の腫瘍細胞のMHCクラスI抗原の表現は患者によって大きく異なり、10〜50%の腫瘍細胞はMHC抗原を持たなかった。同一がん患者から分離した腫瘍細胞をMHCクラスI抗原陽性細胞と陰性細胞に分画したところ、両分画ともに自己のLGLおよびT細胞に対する感受性を有していた。LGLは陰性自己腫瘍細胞を選択的に傷害し、T細胞は陽性細胞に作用する例が多かったが、全体としては両者の間に一定の関係は認められなかった。腫瘍細胞をインターフェロン(IFN)と腫瘍壊死因子(TNF)で処理しHLAクラスI抗原を誘導または増強すると、T細胞による自己腫瘍細胞傷害に対する感受性が誘導または亢進する例が約半数に見られ、LGLによる自己腫瘍細胞傷害は低下または消失した。しかしながら、MHCクラスI抗原の誘導が標的細胞の感受性に影響を与えない例、あるいは逆にLENとTNF処理により自己LGLに傷害され易くなり、T細胞に対しては感受性が消失する例も観察された。腫瘍細胞のHLAクラスI抗原の表現を単クローン抗体処理によって阻止すると、自己LGLに対する感受性が上昇する例としない例がそれぞれ半数に見られた。この抗体処理により新鮮腫瘍細胞は自己T細胞による傷害を受けなくなる例が70%に見られたが、残りの例ではMHCクラスI抗原の表現を阻止された腫瘍細胞が自己のT細胞に殺された。MHCクラスII抗原はLGL及びT細胞による自己腫瘍細胞傷害には関与していなかった。以上、本年度の研究成績は、ヒトがん患者から分離直後の腫瘍細胞のMHCクラスI抗原が、自己のLGLによる細胞傷害に対しては負のシグナルとして働き、自己のT細胞に対しては正の信号となることを立証した。この作用機序は不明であるし、クラスI抗原が関与していない例、その逆の例もあり、今後解明しなければならない。
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