我々は先に活性な、ras、myc、SV40T遺伝子の導入により高発癌制マウスの得られること、癌遺伝子はそれぞれ異なる様相で異なる細胞の癌化に働くことを明らかにし報告した。本研究ではこの点を更に検討する目的で、(1)核に局在しトランスアクチベイターとして働くと想定されているmyb(2)チロシンキナーゼ活性を持ち増殖因子受容体をコードすると考えられるerbB-2(3)セリン・スレオニンキナーゼ活性をもつraf(4)ドロソフィラ形態形成遺伝子に関連するintl(5)レトロウイルスに特有な癌関連遺伝子HTLV-1px及びMFLV gp55(6)HSV-1トランスフォーミング領域にコードされているリボヌクレオチド還元酵素(rr)を導入したトランスジェニックマウスを作出した。 これらの中mybは胸腺など他の組織での発現が認められながら、心肥大を特徴的に起こし、またerbB-2は骨形成の異常を特徴的に引き起こした。erbB-2による骨形成異常は659位バリンのグルタミン酸への変化により増強され、また用いるマウスの遺伝的背景により、他遺伝子座との協同によると考えられる。またHTLV-1 pX遺伝子は用いる発現調節単位によらず胸腺の萎縮を特徴的に引き起こし、マウスフレンドウイルスgp55はそれ自身単独で赤芽球腫を引き起こした。単純ヘルペスウイルス1型のrrはこれを導入した細胞のヌクレオチドプールを不均衡化し、突然変異率を上昇させmutator遺伝子として働くことを明らかにしたが、トランスジェニックマウスでこの遺伝子はメンデル率に従わず低頻度でしか子孫に伝達されなかった。raf、intlを含めこれらのトランスジェニックマウスに付いて引きつずき検討中であるが、癌遺伝子により異なる細胞での異なる様相による病理効果が確認されつつある。
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