研究課題
国際学術研究
大西洋中央海嶺の北東部からノルウェ-西海岸にかけてのプレ-ト・テクトニクス研究の空白の部分について、多くの研究の実績がある日本の海底地震計多数を使って、精密な地下構造の探査と自然地震の活動調査とを行った。この三年間にわたる研究によって、海底から大陸にかけての地殻と上部マントルの精密な地下構造を初めて明らかにしたほか、微小地震の活動を調ベることによって、この付近の地震の起こりかたを知ることも出来、大西洋の拡大の歴史の研究に新しい知見を開くことが出来た。1987年度には予備調査を行った。予備調査とはいえ、同時に新しい科学的な知見を得るために、ノルウェ-最長、長さ200キロのソグネフィヨルドの地下構造を海底地震計とエアガンを使って研究した。ノルウェ-やスピッツベルゲンなどフィヨルドが入り組んでいるところでは陸上の地震計を直線状の測線に並べて行う通常の地震探査の方法が使いにくく、海底地震計とエアガンを使うこの方法は、はるかに能率的なことが実証されて、新しい研究手法を開いた。この研究の結果、海岸から内陸までの地下構造を解明したほか、ソグネフィヨルドの東の部分で地殻を断ち切る構造線が見つかるなど、同地域の地下構造がはじめて詳しく解明された。1988年度の調査では、ノルウェ-西海岸沖の大西洋で日本の海底地震計とエアガン群列を使った、世界でも、もっとも大規模な海底地震探査を2回にわたって行った。この実験によって、地下構造の精密な「三次元的な大規模透視」が世界でもはじめて得られた。この実験のために25台の海底地震計が日本から運ばれ、外国の二隻の観測船で設置と回収が行われた。実験は、日本と、ノルウェ-(ベルゲン大学)、西独(ハンブルグ大学)の共同研究として行われた。観測海域はロフォ-テン諸島から大西洋中央海嶺にかけての海域の二百キロ四方の範囲二カ所に、海底地震計を40〜50キロ毎に編目状に並べ、エアガンを曳航した観測船が、のべ四千キロも、縦横に走り回った。この地域は大西洋中央海嶺の拡大の時に、海嶺から流れだした溶岩が当時の海底を覆ってしまったために、通常行われるマルチチャンネル地震探査では、溶岩層から下の地下構造を見ることが出来ない。このため、溶岩層の下にある地殻構造は研究の空白として残っていた。海底地震計とエアガンを使った今回の地震探査の手法で、はじめて溶岩層より下にある地殻構造を研究することが出来た。結果の詳細は現在まだ解析中だが、溶岩層の下に大陸性の地殻が見つかるなど、地殻構造全体がはじめて分かったことによって、プレ-ト・テクトニクス研究の空白だったこの地域の大西洋の拡大の歴史が、解明されつつある。1989年度には、広くノルウェ-の沖から大西洋中央海嶺近くまでの地域で日本から運んだ海底地震計を使って地震活動の研究が日本とノルウェ-の共同研究として行われた。観測船としてはベルゲン大学所属の観測船が使われた。20台の海底地震計が日本から運ばれ、うち3台はベルゲン大学が持つ陸上の地震観測網を補うためにノルウェ-の陸上に設置された。海・陸で同時に地震観測を行ったわけである。航海は海底地震計を設置する一次航海と、観測後、海底地震計を回収する二次航海の2回あり、それぞれ約二千キロの航路をとって、南北七百キロ、東西五百キロにわたる東大西洋の海域に海底地震観測網を展開した。この西端は大西洋プレ-トが生まれている場所である大西洋中央海嶺近くまで達している。こういった観測密度の高い地震観測は、スカンジナビアからアフリカ南端までの大西洋岸から沖にかけて、どこでも行われたことはなく、欧州でも、いままでに行われたうちで最大規模の海底地震観測だった。この実験によって、ノルウェ-の陸上から大西洋にかけて、はじめて精密な地震活動が明らかになった。ここは、日本のような「能動的」な海陸プレ-ト境界とは対照的な「受動的」な境界であり、これらプレ-ト内地震の起こる理由や起こりかたにはまだ未解明のことが多かった。詳細な結果はまだ解析中だが、高感度の海底地震観測によって、微小地震活動がはじめて明らかになり、海底で地震が並んでいる弱線が発見され、いままでスカンジナビア半島周辺の地震の発生について考えられていた理由とは違う新しいメカニズムを示唆しつつある。
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