研究課題
国際学術研究
コロンビアのマカレナ地域熱帯雨林に同所的に生息するオマキザル科7種のサルについて、本研究では、かれらの生態や社会構造に関して以下の成果を得た。1.フサオマキザルの継続調査によって、次の諸点が確められた。すなわち、群れは複雄群タイプで、オスが専ら移籍する。出産に季節性があり、個体間の順位のあり方は、オスでは年齢と相関し、メスではオスとの親和的関係に依存している。肉食が頻繁にみられ、その分配行動もみられる。2.アカホエザルの継続調査によって、次の諸点が確められた。すなわち、群れは単雄群タイプでメスと交尾できるのは、1頭のオスに限られる。オスが頻繁に移出入し、オス間の攻撃行動も頻発する。仔殺しがαーmaleの交代時にみられ、観察群では出生した5頭のアカンボウのうち4頭が、そのようなオスによって殺されている。3.ウ-リ-モンキ-の継続調査で、特に社会学的に重要な次の諸点が確められた。(1)群れは複雄複雌タイプである。(2)メスだけが専ら移籍する。(3)性の季節性はない。(4)Mountingの時間が非常に長い。(5)発情メスが複数オスと次々交わる。これらの特徴は、新世界ザルの中では、同じクモザル亜科に属するクモザルおよびウ-リ-クモザルと共通する。また霊長類全体で比較すると、(2)はゴリラとチンパンジ-、(3)は類人猿とヒト、(4)はヒトとオラウ-タン、(5)はチンパンジ-(特にピグミ-チンパンジ-)に、それぞれみられる特徴である。クモザル亜科は形態学的研究からmonophyletic(単元的)な系統群といわれてきたが、このことは以上のように行動・社会の研究からも支持できる。また社会の平行進化的類似がクモザルとチンパンジ-の間で存在することが指摘されていたが、これは単にこれら二者間だけでなく、クモザル亜科と類人猿の間に存在すると結論してよい。4.オマキザル科5種の生息地利用と利用木サイズの違いを調査した。5種の中で比較的小型のリスザルとフサオマキザルは、起伏のある丘陵の中の斜面下部から低地部で森林の低層を利用することが多く、一方、比較的大型のケナガクモザル、ウ-リ-モンキ-とアカホエザルの3種は斜面上部から高台部の森林の中高層を多く利用した。利用木サイズにも種間で差がみられ、リスザルとフサオマキザルの利用木は胸高直径20cm以下の小径木に集中したが、その他の比較的大型の3種は胸高直径20cm以上の中大径木を多く利用した。ただし、アカホエザルだけは、生息地利用、利用木とも幅広い選択性を示した。これら生息地利用と利用木の種間差には、食性、採食行動、移動方法や社会形態も作用している。5.起伏の著しい丘陵の卓越する調査域内に、2本の帯状区(長さ1240m、500m)を設置し、植生と地形を調べた。構成個体の生育形、階層構造、被度の3尺度からなる相観によって5つの植生型を識別し、それぞれの存在が地形とその営力である撹乱に密接に関わっていることを明らかにした。また、丘陵尾根部に現われる最も発達した広葉樹林内の5地点(各400m^2)で毎木調査を行い、種組成と構造の多様性を明かにした。調査域内の維管束植物をも採集し、現在までにシダ植物4種、裸子植物1種、単子葉植物13科30種、双子葉植物45科120種を識別した。6.アカホエザルの土食いの理由を明かにするために、土の化学分析を行った。食土(「サラド」とシロアリの巣)は、食われない森林表土に比べて、pH(H_2O)と(4.4ー5.4)、N、P、Ca、K、Na、Clのいずれか複数の元素の含有率が高かった。
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