研究課題/領域番号 |
63041026
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐藤 俊 筑波大学, 歴史人類学系, 助教授 (00114497)
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研究分担者 |
太田 至 京都大学, アフリカ地域研究センター, 助教授 (60191938)
北村 光二 弘前大学, 人文学部, 助教授 (20161490)
原子 令三 明治大学, 経営学部, 教授 (30025431)
SHIKANO Kazuhiro Center for the Areal Study of Africa, Kyoto University
KAWAI Kaori Faculty of Science, Kyoto University
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研究期間 (年度) |
1988 – 1989
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キーワード | 生態人類学 / 社会・生態学的適応 / 牧畜の起源 / 家族集団の基本構造 / 家畜移譲体系 / パラ・ナイル系 / 東クシ系 / 互酬原理 |
研究概要 |
平成元年度は、本研究の最終年度にあたるので、昭和61年度と同63年度に行った現地調査で得た資料を整理し、吟味し、研究成果の公表を行うと同時に、今後研究すべき内容も煮つめることに焦点を合わした。この目的を達成するために、本研究と関連性を持つ北ケニアの牧畜諸民族を研究した実績を持つ4人の研究者にも本研究への参加と協力をお願いした。上記の目的にそって、以下の3つの項目を吟味して、社会・生態学的視点にたった比較研究をおこなった。 1.個々の牧畜社会の社会・生態学的適応機構の解析: 本研究では、原子がガブラ族に関して、また河合がチャムス族に関して、それぞれ通時的視点から家族集団の構造変化と居住様式を分析した。そして、ガブラ族に関しては、家族集団が、家畜の遊牧飼養上の必要性のほかに、年齢体系に関わる諸儀礼を胞族の聖地に巡礼して行うために地域的な分散を行うこと、内部的には、男系近親者との共住よりも姻族との共住が強く指向され、さらに生活依存者をも幅広く糾合して自立的集落を構築してその采配をふるうことが強く指向されていることなどが判明した。 チャムス族は、半農半牧の定着的生活を送っているが、一夫多妻家族内の夫婦間と父子間紐帯は極度に脆弱であり、妻の繁殖能力と彼女の息子の社会的成長に準拠して、母子単位ごとに速やかに分裂してしまう。この特徴は、マサイ系諸民族に共通に見られるものであるが、この点に関する要因論をも視野にいれた比較資料の収集は、今後に残された課題である。 トウルカナ族(分担者:太田と北村)とレンディ-レ族(佐藤)に関しては、家畜の法的管理とその運用のあり方を社会関係との相互関連性の点から分析された。社会構造上の拘束の弱い前者の社会では、家畜は、贈与の形式で当事者間に授受されること、家畜は当事者間の個人的互酬感覚に依拠して授受されるのであって、社会の規範的制度に拘束されて授受されるのではないこと、このような社会では、個人の自力解決能力と獲得的な社会関係網を構築することが、生存する上での絶対的資質であるので、相手を容赦しない社会的相互交渉の手段がとられること、などが明らかになってきた。逆に、社会構造上の拘束の強い後者の社会では、社会・文化的価値を高く付与されたラクダは、家族集団の基本構造内でこそ贈与されることがあっても、それ以外の者には貸与の形式がとられること、ラクダの貸借関係は当事者だけでなくその長子息子にも継承されて通世代的に存続すること、ラクダの贈与や貸与に関する慣習上の運用規則には社会的構造の境界が明示されていること、このような社会では家畜に対する個人の法的所有権すらも共同体的社会交渉によって強い干渉を受けることなどが明らかになっている。 2.社会・生態学的適応戦略の有効性に関する比較研究: 佐藤は、牧畜社会に集団主義的なものと個人主義的なものの二つの対照的な適応戦略が認められることを指摘している。この仮説を検証するためには、家畜群と人口との通時的構造、家畜移譲体系、家畜文化複合などに関する詳細な資料の収集が必要とされる。本研究によって得た、トゥルカナとレンディ-レの社会における家畜移譲体系の対照的な特徴とガブラとチャムスの社会における家族集団の構造的特徴に関する新たな知見は、上記の仮説を支持するものである。 3.牧畜社会の社会進化史的考察: 本研究では、牧畜社会と狩猟採集民社会との比較を互酬原理と家畜群の放牧管理の点で行った。大崎は、本研究の第1次現地調査で得たハッザ族の互酬行動に関する知見とサン族の関連資料との比較研究を行い、彼らの社会に制度化されない互酬原理が根付いていることを明らかにした。この点、レンディ-レの家畜をめぐる互酬原理は、極度に制度化されたものであり、トゥルカナのは両者の中間に位置ずけられると考えられる。 鹿野は、サンブル族の小型家畜群の放牧管理機構を動物社会学的視点から分析した。家畜群の凝集性が、家畜個体にそなわっている所属群全体に対する親和性と牧人からこうむる日帰り放牧による強制移動の体験に帰因することを明かにして、家畜化の起源として、群れ順化説よりも幼獣の個別順化説の方に妥当性があることを指摘した。 本研究では、トゥルカナ族とレンディ-レ族を対極におき、他の北ケニアの牧畜社会をその中間に位置ずけるという社会・生態学的適応機構の系列を明かにすることができた。しかし、家畜文化複合に着目した地域文化誌や家畜の仲介商人の地域商業網と生業牧民との複合構造は、個々の共同体的社会の適応機構を包括的に解明する上で重要な課題として残されている。
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