研究課題/領域番号 |
63041048
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
矢原 徹一 東京大学, 理学部, 講師 (90158048)
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研究分担者 |
CRAWFORD D.J オハイオ州立大学, 教授
伊藤 元己 東京都立大学, 理学部, 助手 (00193524)
渡辺 邦秋 神戸大学, 教養部, 助教授 (80031376)
WATANABE K. Kobe University
ITO M. Tokyo Metropolitan University
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研究期間 (年度) |
1988 – 1989
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キーワード | 倍数体 / ヒヨドリバナ属 / キク科 / 核型 / 酵素多型 / 無融合生殖 / 有性生殖 / 葉緑体DNA |
研究概要 |
北米東南部には23種のヒヨドリバナ属植物が知られている。これらのうち9種には有性生殖を行う2倍体と無融合生殖を行う倍数体が知られている。このため有性生殖と無融合生殖の進化条件を検討するうえで興味深い材料である。古典的な考え方によれば、有性生殖型は遺伝的に異なる子孫を残すので無融合生殖型よりも一般に有利であると説明されている。この立場では無融合生殖型は雑種起源であり、雑種性(高いヘテロ接合性)に由来する有利さ(雑種強勢)を維持するために進化したと考えられている。しかしこの考え方を支持する証拠は十分ではなく、また雑種強勢のメリットが無くても無融合生殖型は一般に有性生殖型よりも増殖率の点で有利であるという理論もある。そこで本研究では同一種の有性生殖型と無融合生殖の酵素多型を比較し、後者が前者よりも高いヘテロ接合性を示すかどうかを検討した。Eupatorium altissimum,E.cuneifoliumについて調査した結果、通説とは異なり両者の間にヘテロ接合体頻度の有意な差は認められなかった。E.altissimumのある無融合生殖型は調査した13遺伝子座についてホモ接合であった。E.cuneifoliumでは、有性生殖型、無融合生殖型を通じて全く変異が認められなかった。これらの結果は雑種性(高いヘテロ接合性)のために無融合生殖が進化するという通説への反証である。同時にまた、有性生殖型における遺伝的変異量自体に適応的意義が無いことを示唆している。2種の有性生殖型はきわめて低い遺伝的変異性を示したことから、これら有性生殖型の有効集団サイズはきわめて小さいものと考えられる。2種の有性生殖型は無融合生殖型よりもはるかに限られた分布域を持っている。この事実は増殖率のうえで有利な無融合生殖型の起源と分布の拡大とともに有性生殖型は分布域を縮小し、特殊な環境で生き残ったことを示唆する。この仮説にもとづけば、無融合生殖型は有性生殖型がより広い分布域を持ち、より大きな遺伝的変異を持っていた頃に起源したために、現在の有性生殖集団では見られない、あるいは頻度の低い対立遺伝子を持っていることが予測される。実際にE.altissimumで見いだされた4つの無融合生殖型のうち3つは有性生殖集団でごく低い頻度でみられる対立遺伝子を持っていた。またE.sessilifoliumのある無融合生殖型は有性生殖集団には見られない対立遺伝子を持っていた。これらの結果は、無融合生殖型は増殖率の点で有性生殖型よりも一般に有利であり、無融合生殖型が侵入できない環境でのみ有性生殖型が生き残るという考え方を支持する。 以上のような有性生殖と無融合生殖の進化条件についての研究のほかに、2倍体レベルでの23種の系統関係について、染色体の形態および葉緑体DNAを用いて検討した。23種の間では葉緑体DNAの制限酵素切断部位の変異は認められず、これらの種の分化が比較的最近生じたことが示唆された。現在酵素多型を用いてさらに詳しい検討をすすめている。染色体の形態については、新たに類似度の定量法を開発し、クラスタ-分析を行った。その結果、形態にもとづいて認識された3つのグル-プが染色体形態のうえでも認識された。今後この結果を酵素多型にもとづく系統樹と比較することによって、ヒヨドリバナ属における染色体形態の変化がどのような要因でしょうじたかを検討する予定である。
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