研究課題/領域番号 |
63041058
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 富山医科薬科大学 |
研究代表者 |
上村 清 富山医科薬科大学, 医学部, 助教授 (00115164)
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研究分担者 |
岩佐 光啓 帯広畜産大学, 畜産学部, 助手 (00168551)
堀尾 政博 産業医科大学, 医学部, 講師 (90131937)
稲岡 徹 旭川医科大学, 医学部, 助手 (00091562)
篠永 哲 東京医科歯科大学, 医学部, 助教授 (00013938)
倉橋 弘 国立予防衛生研究所, 衛生昆虫部, 室長 (00100074)
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研究期間 (年度) |
1988 – 1989
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キーワード | 双翅目 / 南西アジア / パキスタン / インド / スリランカ / バングラデシュ / ネパ-ル / 動物地理学 |
研究概要 |
昭和62年から平成元年の3年間に南西アジアのパキスタン、バングラデシュ、インド、スリランカ、ネパ-ルの5カ国において人畜有害の双翅類昆虫の動物地理学的研究の現地調査を行なった。得られた昆虫資料は日本に持ち帰り、双翅類の乾燥標本約9,000点、プレパラ-ト標本約1,000点のほか、蛾類乾燥標本約1,000点などの作成をし、これら昆虫標本を分類群別に各分担研究者を中心に分配し、研究中である。調査報告書は新種16種の原記載、新記録種83種を報告したが、その概要は次のごとくである。 蚊に関しては、イギリス植民地時代に詳細な調査がなされているが、その後の調査はマラリア媒介蚊以外ではほとんどなされていなかった。今回標高4,700mの氷河の水溜りでOchlerotatus亜属のAedes cataphyllaを記録し、Anopheles barianensisなど幻の蚊とされていた種がいくつかの樹洞、カニ穴などから記録されたが、平地の蚊は森林が少なくなった影響で単純化していた。コガタオオカの人工飼育化に成功し、幼生期は雌27日、雄24日であった。 ヌカカは3新種を含む21種、ブユは30種をパキスタンから記録し、アブ3新種をネパ-ルから記録した。 ツヤホソバエは3新種を含む25種、ハヤトビバエは1新種、2新記録種、メマトイは3新種を含む19種、ヒメイエバエは5新記録種、カトリバエは1新種を含む9種をパキスタンから記録し、クロバエはスリランカの2新種のほか、バングラデシュから28種、ニクバエはパキスタンから32種を記録した。 南西アジアは旧北区、東洋区、エチオピア区との境界線に当たり、学問的に大変興味がもたれる地域である。しかるに1920年前後のイギリス植民地時代に、当時としては詳細な調査がなされて以降、スリランカの蚊を除いてほとんど調査されていない空白地帯であった。これらの地域では一部を除いて森林がほとんど伐採されていて、パキスタンでは森林が国土面積の5%にも満たぬため、昆虫相は概して単純化している。インド、バングラデシュ、スリランカでは東洋区系の色彩が濃く、パキスタン、ネパ-ル、インドの山岳地は旧北区系の色彩が濃く、日本との近縁種や同一種も多く採集された。パキスタンのバルチスタンは東洋区系にエチオピア区系のものが混在していて、動物地理学的に興味ある知見が多数得られた。 蚊媒介疾患のマラリアはインド、スリランカ、パキスタン、ネパ-ルに流行していたが、バングラデシュでは流行地が局在していた。デング熱はスリランカで流行し、インド、パキスタンにも存在していた。日本脳炎はインド、スリランカ、ネパ-ル、バングラデシュで流行し、パキスタンへの侵入も認められた。フィラリア症はインド、スリランカで流行していた。 チョウバエ媒介疾患のリ-シュマニア症はインド、パキスタンに流行していて、被害は想像以上に大きかった。ブユの吸血被害もオアシスで甚大であった。 野糞が多いため、クロバエ、ニクバエ類はじめ微小なハエ類が乾燥地でも多数発生していた。アブ類もオアシスや湿地で発生していて家畜への被害の著しい地域が散在していた。 これらの地域ではマラリア媒介蚊を除いて全くといって良いほど研究が進んでいなかったが、動物地理学上の重要地点にメスを入れた意義は大きい。現地研究者に採集方法や標本作成、同定法などについて教示し、今後さらに研究発展させることが可能になった。そのことによって、これらの国における保健衛生、畜産衛生へも多大の貢献をすると思われるので、さらに調査を進めることが望まれる。
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