研究課題/領域番号 |
63041064
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
宇和 紘 信州大学, 理学部, 教授 (20020662)
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研究分担者 |
NADEE Nivesh 科学技術院, 生態学部門(タイ国), 研究員
MAGTOON Wich シナコリンウィロー大学, 理学部(タイ国), 副教授
高田 啓介 信州大学, 理学部, 助手 (90197096)
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研究期間 (年度) |
1988 – 1990
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キーワード | タイ国 / メダカ属魚数 / 核型進化 / アイソザイム分析 / 地理的分布 / Geographical distribution |
研究概要 |
タイ国はインドシナ半島の中央部に位置しており、地理学的にチャオフラヤ河流域を中心にした北部、中部と、それに隣接した東南部、メコン河流域の東北部、半島部の南部に大別することができる。これらの地域は、それぞれ山脈や水系等によって隔てられた固有の地域で、タイ国における淡水魚類の地理的区分と合致している。 これまでに調査したメダカの生息地は36ヵ所にのぼり、タイ国の主な地域をカバ-することができた。その結果、タイ国には4種のメダカ属魚類が生息していることが明らかになった。 インドメダカとジャワメダカは南部のアンダマン海側に分布している。いずれも汽水性のメダカで、マングロ-ブ林が主な生息場所である。ラノン県からプ-ケット県にかけて両種は混在して生息している。しかし、形態計測、核型、アイソザイム等の比較研究から、自然集団の中に雑種個体は存在しないことが確認された(中間報告I)。両種の雄雌を同じ水槽内で飼育すると稀に雑種の稚魚が生じることがあるが、自然集団は生殖的隔離が確立した同所種であると思われる。タイ国のアンダマン海側は、ベンガル湾沿いにスリランカ、インド、バングラデシュにかけて分布しているインドメダカと、マレ-半島、スマトラ、ジャワ、ボルネオ、ロンボクに分布しているジャワメダカの分布の接点で、両種の住み分けや生殖的隔離機構の研究には格好の調査地である。 タイメダカは、北部、中部、南部、南東部と、東北部の一部に分布している。水田や潅漑用の水路などに生息する小型の種類である。タイ国南部と東北部に生息する集団の核型は端部型染色体42体で構成されており、NORs染色体も端部型である(42A; 2n=42,NF=42,NORsーA)。中国南西部の雲南省の集団も同じ核型をしており、これがタイメダカの核型の基本型だと考えられている。 タイ国北部、中部、東南部の集団は、共通してNF=44で 次中部型のNORs染色体を持っている。次中部型のNORs染色体は、端部型のNORs染色体から両腕間逆位によって生じたと思われる。しかし、染色体数は集団により異なっており、大形の中部型染色体の数が増すにつれ42以下に少くなっている。大形の中部型染色体は、動原体融合によって端部型染色体から生じたもので、動原体融合により大形の染色体が生じるにつれ染色体数は減少するが、NFは変わらない。東南部の集団は大形の中部型染色体が0〜1対しかないのに対し、北部、中部の集団は4〜7対ある。このことから、東南部集団の核型は、核型進化の初期的状態を示していると推察した。 核型研究と平行して、タイメダカ個体群の遺伝的変異をアイゾザイムを用いて解析した。その結果、タイメダカの個体群は地域に特有の対立遺伝子および遺伝的距離を用いたクラスタ-分析により、チャオフラヤ河水系を中心にした中部・北部・東南部を含む中央部グル-プ、メコン河水系の東北部グル-プ、半島部の南部グル-プの3つの地理的グル-プに分けることができた。 これらの結果から、タイメダカの核型進化、遺伝的分化と地理的分布の関係をつぎのように推論した。タイメダカの祖先はタイ国を中心に中国南西部やミャンマ-、マレ-半島等に広く分布していたと思われる。その核型は現在タイ国南部、東北部、中国の南西部の集団にみられる端部型染色体42本であろう。タイ国では、タイメダカは地史的変遷によりチャオフラヤ河水系を中心にした中部・北部・東南部を含む中央部グル-プ、メコン河水系の東北部グル-プ、半島部の南部グル-プの3つの地理的グル-プに分けられ、それぞれ独自の遺伝的分化を遂げてきた。このうち、核型の地理的多型は東南部を含むチャオフラヤ河流域で生じたものである。 メコンメダカはタイ国東北部のメコン河流域に生息している小型の種類である。1984年に発見された新種のメダカで、ニホンメダカのル-ツであると考えられている。現在、3地点から採集された個体群が系統保存され、形態、発生、核型、アイゾザイム等の比較研究が進められている。メコンメダカは、メコン河水系の一支流であるタイ国東北部だけでなくメコン河流域に広く分布していると思われるので、今後、ラオス、ベトナム、カンボジアを含めた広域的な調査研究が必要である。
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