研究課題
国際学術研究
ヤルザンポ縫合帯(Suture ZoneI)と斑公湖ー怒江縫合帯(Suture ZoneII)にはさまれた南北約350kmの地域(拉薩ー那曲帯)の地質について調査を行った。また、比較検討をするため、中国東部の主要な縫合帯である蘇北ー〓南地域に産する超高圧変成岩について、岩石学的検討を併せて行った。1.Suture zoneIから北に向い、主に白亜紀後期から古第三紀の磁鉄鉱系列卓越帯(比較的低い^<87>Sr/^<86>Sr初生値を持つ閃緑岩〜花崗岩)、白亜紀前期のチタン鉄鉱系列帯(高い^<87>Sr/^<86>Sr初生値を持つ優白質花崗岩)がこの順に分布し、両者の中間に中新世のチタン鉄鉱系列花崗岩類が貫入している。古第三紀の花崗岩類は、カリ長石の巨晶で特徴づけられる。白亜紀後期の花崗岩類のうち最南部のSuture ZoneIに沿うものは、最も帯磁率の高い閃緑岩〜斑れい岩からなる。磁鉄鉱系列の花崗岩は島弧〜大陸縁辺部で、チタン鉄鉱系列の花崗岩は衝突帯で形成されたと推定される。2.Suture ZoneIIの南側では、基盤変成岩類ージュラ系はスラストによって緩い覆瓦構造をなし、ジュラ系の上にオフィオライトがナップとしてのることが確認された。この上位にオフィオライトの再堆積層を見いだした。これらのオフィオライトおよび再堆積層から発見した多数の化石は、ネオ・テ-チス海の形成と収束の時代決定に重要な役割を果たす。Suture ZoneI周辺の地層は、後期白亜紀系まで激しい変形をうけ、Suture ZoneII周辺とは著しい対照をなす。基盤岩およびこれを被覆する中・古生層の調査と考察から、Suture ZoneIの南(インドーヒマラヤ帯)、Suture ZoneIとSuture ZoneIIの間(拉薩ー那曲帯)、Suture ZoneIIの北(唐古拉帯)は二畳紀までは共通しており、唐古拉帯までゴンドワナに属するという見通しがついた。今回の調査の結果、チベット南半分のテクトニクスは、ゴンドワナの周辺において、三畳紀(?)の縁海(ネオ・テ-チス海)の形成とジュラ紀収束(Suture ZoneIIの形成)、ジュラ紀〜白亜紀における背弧海盆の形成と古第三紀収束(Suture ZoneIの形成)によるという予想をたてることが可能となった。3.揚子・中朝両地塊の境界をなす縫合帯中には、コ-サイトを含むエクロジャイトが点在する。これら超高圧エクロジャイトは、その母岩の違いによって、片麻岩(タイプI)、超塩基性岩(タイプII)および大理石(タイプIII)中に産するものに大別される。タイプIエクロジャイトは、主にざくろ石+オンファス輝石+角閃石+藍晶石+石英(コ-サイトの仮像)+ルチルの鉱物組み合わせを持ち、およそ30kb以上の超高圧累進変成作用で形成された。タイプIIエクロジャイトは、タイプIに類似し累進変成作用によって形成されたと考えられるものと、上部マントルに由来するものとに大別される。後者は、主にMgに富むざくろ石とオ-ジャイトからなり、石英を含まないことを特徴とする。タイプIIIエクロジャイトは、Caに富むざくろ石とオンファス輝石からなり、キンバレ-岩中に産するグロスピダイトと類似する。これまでに報告されたデ-タを含めて、コ-サイト・エクロジャイトの形成条件を比較すると、西部の大別山地域から東部の栄成地域にかけて、平衡温度は次第に高くなることが明かとなった。また、エクロジャイトの上昇にともなう後退変成作用の温度条件も、東部ほど高いことが明かとなった。これらのことに対する解釈として、(a)東部ほどより深部に由来するエクロジャイトが分布する、もしくは(b)東部ほどより高い地熱勾配のもとで変成作用をうけた、ことが考えられる。また、再平衡組織の一つであるシンプレクタイトに着目すると、それが発達するエクロジャイトと認められないものに大別できる。シンプレクタイトは、母岩である片麻岩が被った広域変成作用時に、形成されたと考えられており、それの有無は、エクロジャイトの貫入時期がさまざまに異なっていたことを示唆している。
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