研究課題
国際学術研究
アジア産霊長類の進化を課題とする本研究は三班よりなっている。1)インドネシア国スラウェシ島のマカク、2)カリマンタン島のオランウ-タン、3)タイ国におけるカニクイザルの捕獲調査である。1)スラウェシ島のマカカ属のサルは外部形態が明瞭に異なる7種類からなり、それぞれ異所的に生息している。ある種は形態が特殊化し、むしろ他の属であるヒヒの特徴を示す。一方他の種はマカカ属に典型的な特徴を示す。本調査では種間のボ-ダ-域で野生およびペットのサルの外部形態を調査し、二つのボ-ダ-では雑種は確認されたがそれらは非常に限られた地域で、ほとんどのボ-ダ-域では各種に特徴的な形態をしたサルが生息していることを確認した。他方同島を広範に調査し、ペットから血液試料を採取し、白血球分画を国内に持ち帰りDNAを調製した。現在スラウェシマカク全7種に他のマカク12種を加え、進化速度の早いψβ偽遺伝子領域の約1kbの塩基配列を決定している。2)東カリマンタン島のフタバガキ科の高木からなる広域の熱帯低地森林が1983年に焼失した。この地域はオランウ-タンの生息地でもある。継続調査によりオランウ-タンの食性の変化を明らかにした。火災直後は樹皮を多く食べていたが、二次林の発達にともない葉や茎が食べられるようになった。3)タイ国カニクイザルの調査では7地域12群計278頭のサルを一次捕獲、麻酔下に身体計測を行なうとともに血液試料を採取し血液タンパン質、酵素の電気泳動による分析、DNA試料についてはαグロビン遺伝子の解析を行なった。主成分分析による形態的特徴では第2主成分の正方向に北部のサルが負方向に南部のサルが分布し遺伝学分析と一致した。遺伝学分析では北部のサルと南部のサルの間で遺伝的な隔たりがあり、南部のサルはマレ-半島や大スンダ列島のカニクイザルと類似性があり、北部のサルはそれらと大きく異なった。遺伝子の分析では、高等霊長類一般に2遺伝子存在するαグロビン遺伝子が三重複している例がタイ国南部のサルに多くみられ、この変異はマレ-半島を起源とすることまたサルマラリアと関連のあることを示唆した。
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