稲の増産対策は、基本的には環境改善、栽培技術の向上及び優秀な遺伝子を持つ品種の育成の三本柱より成り立つ。本調査は、最後の項目である優秀な品然を育成するために広く遺伝子源を探索し採取することを志向したものである。 栽培種の一種Oryza sativaは、インド北東部において野生種より進化したのち、分化、伝播の一つのル-トをアフリカに記した。その後人為選抜を受けてアジアのそれとはかなり異った形質を示すに至った。他の栽培種であるOryza glaberrimaは、西アフリカにおいて野生種より進化し、西アフリカから中・東部アフリカにおいて湿潤地や乾燥地において広く栽培されるに至ったが、外来のO.sativaに比較してなお未分化の点が多くみられる。これら両栽培種は、アジアにおけるindicaやjaponicaよりもjavanicaに近い形質を備えた一種独特の存在であり、また、地理的・生態的環境の多様性に起因して、それらが示す形態的、生理的または遺伝的諸形質の変異性は驚くべき多様性を示しており、稲遺伝子源の宝庫というにふさわしい地域である。 一方野生種に関しては、アフリカには、O.glaberrimaの直接的祖先型であるO.breviligulataをはじめ数種の分布が記録されているが、いずれも断片的記載に終始し、アフリカ全域における系統だてた報告には程遠いものである。全アフリカ的見地から正確に分布地点を確認し、記録するとともに、水分・光・土壌などの環境条件を明確にすることによって、稲遺伝子源の有効利用に供さねばならず。本現地調査の目的は正にここにあった。 本研究は、上記現地調査で得た結果を基礎にしてとりまとめを行った結果を示し、それらを使用して生理学的、生態学的、遺伝学的及び作物学的調査を可能にすることを志向したものである。以下、本年度迄に得た栽培種、野生種及び生態学的調査の概要を述べる。 栽培種の粒形調査から次のような地域特性が明らかになった。マダカスカル産では玄米長は6.47mm、幅は2.52mm、厚さは1.86mmの平均値を示した。長幅比は0.44であった。長・幅・及び幅・厚の間では正の相関が認められたが長・厚の間では認められなかった。一方チンザニア産ではそれぞれ6.94mm、2.56mm、1.83mmの平均値を示し、長幅比は0.30でありやや丸味を帯びていた。長・幅の間に相関が認められなかった。O.glaberrimaの分布が確認された。 玄米のアミロ-ス含有の分析では、マダガスカル産では29.1%から12.4%の変異を示したが、タンザニア産では28.1%から7.2%の変異を示し、非常に低含量の系統が認められた。 また、貯蔵蛋白質の分析ではマダガスカル産でAタイプ16%、Bタイプ84%、タンザニア産ではAタイプ24%、Bタイプ76%であった。いずれの形質についても国ごと、また国の中での地域特異性が確認された。 野生種の種の同定を厳密に行った。また、粒形調査ではO.longistaminataはマダガスカル産で籾長7.93mm、幅2.26mm、厚1.52mm、長幅比は3.54、タンザニア産ではそれぞれ8.70mm、2.34mm、1.63mm、3.77を示し、タンザニア産が大型であった。一方、タンザニア産のO.puntataはそれぞれ5.96mm、2.29mm、1.51mm、2.62を示した。栽培種同様に地域特異性が認められた。野生種の分布は広く、且その生態的条件は極めて多岐に亘っている。すなわち湿潤氾濫原は勿論、サバンナにおいても、また光条件についても多様な適応現象を示している。自然交雑現象は少いが、栽培種と野生種の複合集団が見られた。 前2回の調査を発展させた報告を6編発表した。栽培種については、現地採集系統を継代栽培中に多くの分化が確認され、種間及び種内、更には地域間の変異が拡がって見られた。しかしO.glaberrimaの変異はO.sativa変異よりも小さかった。伝統的農法の地域で採取した系統ほど丸味を帯びた籾型を示していることが注目された。 前回得られた水文環境の結果から、陸稲とソルガムの水利用効率と農業生産力の関係を単植と混植について、アフリカの実態との整合性について論じた。
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