研究課題/領域番号 |
63041115
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
松田 藤四郎 東京農業大学, 農学部, 教授 (90078121)
|
研究分担者 |
藤本 彰三 東京農業大学, 総合研究所, 助教授 (80147488)
増田 萬孝 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (70011947)
樋口 貞三 筑波大学, 農林学系, 教授 (50003752)
広瀬 昌平 日本大学, 農獣医学部, 教授 (00102517)
金沢 夏樹 日本大学, 農獣医学部, 教授 (90011783)
|
研究期間 (年度) |
1987 – 1989
|
キーワード | 東南アジア / 稲作技術革新 / 経営展開 / 稲作生産力 / 農家の行動原理 / 農家所得 |
研究概要 |
本研究は、東南アジアにおける稲作技術変化が生産力構造と農村社会に与える影響を、圃場および個別農家の多様な条件を踏まえて解明することを目的として、昭和62年度から3カ年計画で実施してきたものである。昭和62年度にはマレ-シアおよび南タイ、63年度にはフィリピンで稲作農家調査を実施し、平成元年度には補足調査とデ-タのとりまとめを行った。本研究の特徴は詳細な個別農家にある。各国の主要な稲作地帯で典型的な村落を選出し、非農家を含む全戸の悉皆調査を行った。調査地は、マレ-シアがタンジョンカラン(2村落)とスブランプライ(1村落)、南タイがサトゥン(2村落)、フィリピンがラグナ(1村落)とヌエバ・エシハ(2村落)である。総調査戸数はマレ-シアで166戸、タイで142戸、フィリピンで394戸に達した。 本研究の主要な成果は次の諸点に要約できる。1.マレ-シアのタンジョンカラン地区ではマレ-農民と華人農民が隣接して稲作に従事しているが、著しい生産力格差が存在する。圃場整備、水管理、肥培管理のいずれにおいても華人農民の方が水準が高く、経営的に優れている。 2.マレ-農民の技術水準も高くなってきている。たとえば、スブランプライ農村の過去10年の変化を検討すると、労働節約的技術体系が確立された。トラクタ-、通播、除草剤、コンバインの体系である。稲作補助金制度と技術革新によって収益性が改善され、経営規模拡大が進んでいる。 3.南タイのサトゥン県はイスラム・タイ人が支配的である。天然ゴムと稲作を中心とする経済構造になっているが、かんがいと技術革新によって米の増産を図っている。しかし、技術水準は低く、生産力も低い。農家は、稲作、天然ゴム、農外就業から収入を得るので、農家所得のバラツキは比較的小さい。 4.フィリピンではラグナとヌエバ・エシハとの間に際立った技術上の相異が存在する。前者はダポと呼ばれる稚苗植えと徹底した除草、後者は直播栽培を特徴とする。 5.フィリピン農村では農地改革の影響が現われている。以前の小作農は「見なし自作農」として土地保有権が保障されているが、土地なし農民が小作地を入手できなくなるなど農民間の階層が固定化されてきている。恵まれた者とそうでない者との格差が拡大する可能性が大きい。 以上、調査国別に重要な調査結果を概略した。東南アジアにおける稲作技術革新と生産力構造については、全体として、次のように総括できる。1.稲作技術革新は新品種、化学肥料、農薬、機械など近代的生産要因の普及であり、とくに生物・化学的要因はパッケ-ジとして導入されている。しかし、生態系、自然条件の相違を反映して、国別地域別にパッケ-ジの中味に格差が存在し、さらに、同一パッケ-ジの普及を図っても必ずしも一律に導入されていない。各農家が自然条件のみならず自己条件を踏まえて自由に選択できる多様な技術の普及を図ることが必要である。 2.個別農家は技術選択あるいは生産力の発現過程において必ずしも稲作のみを考慮しない。農家の行動原理は、土地、労働、資本への報酬を混合した農家所得の極大化である。したがって、稲作が支配的な地域・農家では稲作生産力の向上に努力するので技術革新も進むが、収入源が多様な地域・農家では稲作は一部門に過ぎず必ずしも技術向上・生産性向上につながらない。稲作技術革新は稲作専作地帯で成功する可能性が高く、生産性の向上と所得の増大につながる。稲作専作地帯以外では技術革新の誘因は弱く、限られた資源をより有効に利用する方策を考案することが重要である。 農業開発政策の立案においては、稲作生産性向上あるいは収益性改善というような作目別接近を見なおす必要がある。個別農家の行動原理を踏まえ、多様な選択幅を提供し、実際の展開方向は各農家の選択に任す方が効果的と考えられる。
|