研究課題/領域番号 |
63043004
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研究種目 |
海外学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山崎 文雄 北海道大学, 水産学部, 教授 (60001608)
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研究分担者 |
井田 斉 北里大学, 水産学部, 教授 (90050533)
山羽 悦郎 北海道大学, 水産学部, 助手 (60191376)
前川 光司 北海道大学, 歯学部, 助手 (80002301)
後藤 晃 北海道大学, 水産学部, 助教授 (30111165)
実吉 峯郎 北海道大学, 薬学部, 助教授 (20002339)
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研究期間 (年度) |
1987 – 1988
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キーワード | オショロコマ / 北極イワナ / アラスカ / 繁殖生態 / 生殖的隔離 / 集団遺伝 / 残留型 |
研究概要 |
集団の遺伝解析 アラスカ州に生息するオショロコマは降海型を基本とする個体群から構成されているため、陸封を基本とする我国のオショロコマと比較した場合、集団間の遺伝的分化がどの程度になっているのか、また、コデアック島のカーラック川水系に古くからオショロコマと北極イワナ(S.alpinus)が共存するとされているが、この集団がオショロコマの変異型であるのか、極周辺に広く分布する北極イワナのレリック集団か、まだ一致した見解がない。 本調査において以上の2点を考慮し、ジュノー市に本拠をおいて、ジュノー市周辺で5集団、ケチカン1集団、アンカレッジ1集団、コデアック島2集団の合計9集団およびチャンドラー湖で北極イワナ7個体を採集した。アイソザイム電気泳動法によって集団の遺伝子組成の解析を行った。用いた臓器は眼、肝臓、筋肉であり、15酵素から26遺伝子産を推定して解析した。 ジュノー市周辺の5集団で遺伝子頻度を基に、集団の異質性を検定した結果、有意差はなく、各集団間で遺伝的類似性が極めて高いことを示しており、この事実はオショロコマの母川回帰性が厳密ではなく、各河川間で遺伝的交流のあることを示唆している。また、地理的に離れた集団間での遺伝的類似性はコディアック島Thumb湖の集団を除いて、極めて高いことが示され、各集団間の遺伝的分化の程度は、北海道のオショロコマ集団に比べて、著しく低い事が明らかにされた。この事実はアラスカのオショロコマが降海型を基本とし、しかも、河川間で個体の繁殖交流があって大きくはアラスカ湾沿岸域を中心に一つの大きな遺伝的均一集団を形成しているとみることができる。 カーラック(1)水系のThumb川で採集されたオショロコマ集団とThumb湖で採集された北極イワナとみなされる集団の間にはpー2で対立遺伝子が完全に置換しており、更に、Lggー1 LIー1では対立遺伝子頻度に有意差が認められた。まだ全背椎骨数と鰓数で両集団に明瞭な差が認められた。この結果は、両集団間に遺伝的交流がなく、生殖的に隔離されたオショロコマとは全く異なるイワナ集団であり、北極イワナのレリック集団であるとの見解が支持された。チャンドラー湖のイワナ7個体と他のオショロコマ9集団との間にpgmー1で対立遺伝子の置き換えが見い出された。 繁殖生態 1987年9月、アラスカ中南部のTiekel Riverにおいて、河川残留型オショロコマの繁殖生態に関する調査を行った。詳しい繁殖行動の解析には8mmビデオに録画されたデータ( 例)を用いた。 アラスカのオショロコマは降海型を主要群とするが中には残留型も観察される。この2型と北海道の然別湖に生息する湖沼陸封型のミヤべイワナを比較すると1産卵床内の産卵回数と産卵毎に参加する残留型雄(ストリーカー)の数との関係で相違のあることが明らかになった。ミヤべイワナではストリーカーの数が多くなると雄の1産卵床内の産卵回数は減少する。この産卵回数の減少は雄の活発な食卵行動と関連している。一方、アラスカの降海型オショロコマの産卵回数は残留型雄数と相関はなく、ほぼ一定している。この相違はアラスカの降海型オショロコマの雄には食卵行動がみられないことから雌は産卵を継続するものと推定される。一方、アラスカの陸封型オショロコマの雄には食卵行動はみられないが、雄がペアの産卵中にスニークして放精した場合には、雌は次の産卵を中止する傾向があった。この場合の雌はサテライトの放精そのものを嫌っている可能性があり、いわゆる大きい雄を選ぶ雌の選択が働いているものと推定された。 繁殖時における性比は雄に偏っていた(7:3)。雄の繁殖戦術として、雌とpairを組む方法とpairの周りに位置し、産卵の瞬間に飛び込んで放精する(スニーク)方法があり、pairを組む方法の繁殖成功率は97%であるのに対して、スニークする方法の成功率は47%であった。全産卵(n=43)の77%が上流側と下流側の第一位と第二位の雄がpair雄となって受精したものであり、他の大部分の雄はサテライト(2.4匹/pair)となって残りの卵を受精した。したがって優位な雄4個体と他の大部分の雄との間には繁殖成功度に歴然たる差がみられた。この差が集団全体の中でどのような意味を有するのか今後の大きな課題となった。 降海型のオショロコマは降海時に多量のグアニンを形成する。このグアニン形成に関与するプリン又はヌクレオシドホスリラーゼの活性含量が降海と関連して河川間で差のあることが明らかとなった。本調査はイワナおよびサクラマスに関する国際会議(札幌1988)の開催に大きく寄与するところとなった。
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