研究分担者 |
東 正剛 北海道大学, 環境科学, 助手 (90133777)
山根 爽一 茨城大学, 教育学部, 助教授 (40091871)
安部 琢哉 京都大学, 理学部, 助教授 (00045030)
今井 弘民 国立遺伝研, 細胞遺伝, 助教授 (10000241)
伊藤 嘉昭 名古屋大学, 農学部, 教授 (50115531)
|
研究概要 |
本研究は、ハチ、アリ、シロアリ等の真社会性昆虫の社会性の進化ルートおよびそのメカニズムを考察するため、これらの原始的な種類を多数かかえているオーストラリアにおいて生態学的・分類学的調査を行なったものである。昭和61年度に予備調査、62年度に本調査を行ない、引き続いて本年度はその総括作業を行なった。以下、一連の研究成果の概要を各昆虫群ごとに述べる。 1.狩りバチ類に関しては、チビアシナガバチ属の5種の社会構造の研究を行なった。その中で、Ropalidia revolutionalisにおいては、創巣が複数のメスで行なわれ、それらのメス間に産卵上の優劣差が明瞭に認められることが分かった。また、巣が拡大し複巣になると攻撃行動が高いレベルに達することが観察された(Ito,1987)。特筆すべき発見はRopalidia plebeianaにおける創設直後の巣の分割によるコロニーの増殖法であるこのような増殖法は、従来、社会性昆虫ではまったく知られていなかったものであり国際的に注目されるであろう(Yamane,Ito & Spradbery,in prep.)。このハチは、橋の下などに巨大な巣集団を作る。それは極めて密な集団であるが、個々の巣は独立しており、それぞれを占有しているメスは、別巣に移ることはない(Ito & Higashi,1987)。このような営巣様式の適応的な意味を知るため一つの巣集団内の個々の巣の生存率と繁殖メス生産率を調査した。巣の生存率は極めて高く、古巣、新巣ともに90%近くに達していた。これはこれまで知られていた他のアシナガバチ亜科の値に比して最も高い値である。1コロニー・サイクルの間の繁殖メスの数は11倍にも増加していた。本種の巣集団形成はこのような高い増殖率を実現させる点で有利であると考えられる。おそらくヒメバチ等の寄生に対処する上で重要な方策であると思われる(Ito,Yamane & Spradbery,1988)。 2.アリ類に関しては、系統学の観点から興味深いいくつかの原始的な種をとりあげた。各地のトビキバハリアリ類の染色体を調査した結果、特異的な染色体多型が発見された。このアリは従来は1種と考えられていたが、染色体、形態、生態の面からいくつかの新種に分けられるべきものであり、染色体進化と種分化の問題を明かにする上で大変重要なものであることが分かった(Imai,Taylor,Crosland & Crozier,1988)。 キバハリアリの1種であるMyrmecia brevinodaの巣を掘り、その全コロニーを詳細に調べた。全数で2576匹のワーカーがおり、それらは大小の2型を示し、小ワーカーは巣の下部に、大ワーカーは上部に多かった。そして、小ワーカーは内部の巣作り、大ワーカーは狩猟、防衛、外部の巣作りを行なっていることが分かった(Higashi,in prep.)。 シロアリの塚内に生息している8種のアリを調査し、それらとシロアリとの関係を考察した。これらのアリ類は、塚を作るシロアリに対する破壊的な捕食者であるIridomyrmex sunguineaにたち向かう。結果として、これらのアリとシロアリの間には共生(相互扶助)的関係が成立していると考えられた(Higashi,in prep.)。 3.シロアリ類に関しては、山地熱帯多雨林におけるシロアリ群集の種組成、生活様式、個体群密度、現在量を調べた。6種のシロアリが発見されたが、内5種は下等なものであった。東南アジア、アフリカ、南米などの熱帯多雨林でのシロアリ群集と比較すると、オーストラリアは種類数が極端に少なく、下等な種の割合が高いことで、他の地域とは大きく異なっていることが分かった(Abe,in prep.)。 4.シロアリの社会性の起源を考察する上で重要な、朽木中に生息する食材性のオオゴギブリ属の4種のコロニー組成についてのデータを詳しく取り、これらのゴキブリの亜社会性生活の意味を考察した(Matsumoto,1988)。また、従来ほとんど知られていなかったヨロイモグラゴキブリの調査を行ない、その生活様式を詳細に明らかにした。このゴキブリはオートラリア東北部のユーカリ疎林地帯に分布し、地中に営巣して家族を形成する。また、その生息密度の高さ、巨大な体のことを考えると、社会進化学上たいへん注目されるものである(Matsumoto,in prep.)。
|