研究課題/領域番号 |
63043045
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研究種目 |
海外学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 幸丸 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (20025349)
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研究分担者 |
星野 次郎 姫路独協大学, 一般教育部, 講師 (60199479)
松沢 哲郎 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (60111986)
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研究期間 (年度) |
1987 – 1988
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キーワード | チンパンジー / 生態学 / 道具使用行動 / パタスザル / ミドリザル / 採食生態 |
研究概要 |
昭和62年度にギニア国・ボッソウ地区、カメルーン国・カラマルエ地区、カンポ地区において行なった野外調査から得られた資料を整理・分析し、一部はすでに発表した。各調査地毎の成果の概要を以下に示す。 ギニアでは、リベリアとの国境に近い森林地域において、ボッソウ村の周辺に生息する野生チンパンジーを調査した。主な調査テーマは、(1)個体群動態、(2)道具使用、(3)性行動、(4)その他の社会行動である。この集団は1976年から餌付けをしない状態で継続調査が続けられており、長期のデータが蓄積されている。(1)個体群動態については、今回の調査中に若いオスが1頭死亡し、その死体の解剖から死因等を推定する作業を行なった。あわせて行なった聞込み調査で、過去の死体発見例を明らかにした。また、死体の計測結果から、死亡個体は飼育下の同年令個体に比べて1〜2年の発達遅滞が認められた。(2)道具使用については、自然石を使ったアブラヤシの種子割りを中心に、調査・実験を行なった。その結果、石が入手不可能な場合にはチンパンジーは代用物(木)を道具として躊躇なく使用すること、石も実も運ぶこと、石のサイズとヤシの実の鮮度に好みがあること、石の役割は固定していないこと、等、チンパンジーの道具使用における可塑性が明らかになった。ヤシ割り以外では、道具を組み合わせて使用した二次的(メタ)道具使用例の観察、ボッソウで今まで観察例のなかった棒によるアリ釣り行動とその痕跡の多発など、新知見が得られた。チンパンジーの道具使用行動は豊かな認識能力に裏付けられており、今回の調査は生態学と心理学をつなぐ新しい試みである。(3)性行動については、メスの発情とオスの多寡との関係を分析した。その結果。オスが多ければメスの発情周期が一致し、オスが少なければメスの発情周期は一致しないことがわかった。オスをメスにとっての資源と考えれば、資源が少ないときには共有し、多いときには競争するという適応的スィッチングがあるといえる。(4)社会行動に関しては、チンパンジー社会の特徴である離合集散の諸相と原因を解明するのが目的である。データは現在解析中であるが、オス間の年令階層に従った役割分担、個体の役割と社会的状況の関係、離合集散と食物の関係などが明らかになりつつある。 カメルーン国・カラマルエにおいては、同所的に生息するパタスザルとミドリザルの比較採食生態学的研究を行なった。これら2種は霊長類の中でもとくにオープンランドへの進出に成功した種である。しかし、両種の間には、採食・遊動に関していくつかの相違点が認められた。パタスザルは草原地帯を主に遊動し、乾季には一群の遊動域面積はおよそ6km^2、1日の移動距離はおよそ6kmであった。これに対し、ミドリザルは草原地帯も利用することはあるが、主に川辺林を遊動し、遊動域面積はおよそ1km^2にすぎず、1日の移動距離も2km程度であった。食物品目に関しては、両種とも木本の果実、アカシアの種子・花・樹液を主要食物とする点は共通するが、パタスザルが昆虫(特に、バッタ・ゾウムシ・昆虫の幼虫)だけでなく、鳥の雛・トカゲといった肉食を行なうのに対し、ミドリザルでは昆虫食はまれにみられるものの肉食はまったくみられず、そのかわり多種の川辺の草の葉を採食する特徴がみられた。この相違はパタスザルとミドリザルの蛋白質摂取量の大きな相違をもたらし、これがパタスザルに乾季出産をもたらした可能性がある。 カンポでは、チンパンジーのパーティ構成と道具使用行動を調べた。ここでは昭和60年度からチンパンジーの餌づけと人づけが続けられている。62年度の調査では餌場内に設置されたブラインドからの観察が一部可能となった。しかし、餌場に現われる集団の多くは単独もしくは2個体という構成で、複数の雄・雌・子供を含む最大9頭の集団が観察されたが、社会構造の研究に踏み込むまでには至らなかった。この地域のチンパンジーの道具使用行動(堀り棒によるシロアリ採食)に関しては、すでにSugiyama(1985)の報告がある。今回の調査では堀り棒の属性に関する追加資料とシロアリ採食の発生頻度と時期に関する資料が収集された。発生頻度は非常に低かったが、堀り棒の材料として特定の種が選択される傾向が見られた。
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