研究分担者 |
SKALA Emil カレル大学, 哲学部, 教授
橋本 聡 北海道大学, 言語文化部, 講師 (40198677)
藤井 明彦 早稲田大学, 文学部, 助教授 (40146204)
中島 和男 西南学院大学, 文学部, 助教授 (70069722)
松尾 誠之 岐阜大学, 教養部, 助教授 (40108262)
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研究概要 |
昭和62年夏実施したチェコスロヴァキアにおける文書館調査で我々は13世紀に同国内で成立した独語文献は見出せなかったが、その後の調べでBreclav1282年、Jaroslavice1285年2件、Valtice1290、1293、1294年の6件の文書が在ることが分かった。Jaroslavice文書以外は全部オーストリーの文書館に所蔵されているので、我々の調査では確認出来なかったのである。しかしこれらは全てF.Wilhelm,Corpus der altdeutschen Originalurkundenの増補巻に収録されている。我々は未刊行文書の収集を目的としたので、Corpusに収載されている13世紀の独語文は対象にはならない訳であるが、独語文書出現の上限の年代を確認することもこの調査の目的の一つであったので、ここで述べておきたい。なお我々はCorpusに収録されていない13世紀の独語証文1件を収集した。(Brno,Collalto文庫1293年)。しかしこれはCoriziaで成立したもので地元で書かれたものではない。最初期の独語文書の成立地の9割以上が南ドイツ語圏に集中しているが、上記の南モラヴィアの地点は全てのこの地域に隣接している。ボヘミアにおける最も古い独語文書の年代は1300年(Nympurk/中央ボヘミア)であるが、その他オーストリーと隣接する南ボヘミアで多く独語文献が成立している。今回の調査で、最も古い段階の資料を最も多く収集できたのは南ボヘミアと南モラヴィアの文書館においてであった。 以下収集古文書を証文は地域別、帳簿類は種類別にして挙げる。 証文:Trebon 61,Znoimo 89,Brno 358,Bratislava 120,Kosice 113,Presov 1,Opava 52,Olomouc 12. 帳簿類:Stadtbuch 4,Rechtsbuch 8,Wirtschaftsbuch 3,Testamentsbuch 2,Korespondenz 2 Judenbuch 1,Chronik 1,Protokoll 4. 収集資料の形態はほとんどがマイクロフィルムで、総コマ数は約13,000である。今回の分析の対象として我々は証文文書を取り上げた。この調査研究の目的である14世紀前半の独語文書の種類は証文に限られていること、Stadtbuch等の帳簿類は、言語資料としては重要だが量的にも、内容からいっても、一定の期間内に一定の分析結果を得ることが困難なためである。研究分担当が各々一つの地点をえらびそこの資料の転写、分析を受け持った。調査ルートの順であげるとTrebon(南ボヘミア)松尾、Brno(中央モラヴィア)小野、Bratislava(西スロヴァキア)藤井、Kosice(東スロヴァキア)橋本、Opava(シレジア/北モラヴィア)中島である。 松尾が扱った証文はHohenfurtのシトー派修道会文書14世紀前半成立の11枚である。この文書に表れているbairischの特徴を検討し、ei>ai書法も証文によって差があること、中世末期書法上も区別が失われたs【tautomer】zの書き分けがここでは比較的よく保たれていること等を確認した。また転写テクストをPangerlの刊行テクストと比較して、後者の不備を指摘している。 Brnoには地元で成立したものではない、オーストリー出身の貴族や豪族に由来する多くの古文書がある。小野は比較資料を得るためSteiermarkで書かれた文書と、Kenzingenの証文をとりあげ、書き言葉の超地域性と、土地の方言ではなく書き手による特殊性を考察した。 スロヴァキアにおいて14世紀前半の独語文献が存在したのはBratislava市立文書館だけであった。藤井は同日、同内容の2枚の証文の比較を中心に異なる時代の資料と、Wien資料との比較を行い、この地域の独語書記法の性格の一端を示している。 東スロヴァキア資料は15世紀のものであるが、発信地が各地におよぶ通信文である。橋本は母音書記体系の徹底的な分析を行い、当該地のドイツ語の実態について基礎的なデータを作成した。 シレジア資料を分析した中島は、比較的統一的な書法であること、二次アクセント音節におけるe>i等mitteldeutschの影響が強いもののbairisch-osterreichischの要素も認められる等、超地域的な傾向を観察している。 我々はここで古文書の可能なかぎり厳密な転写をおこなった。言語資料として十分に利用し得るこのようなテクストの作成はおそらくわが国では初めての試みである。
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