研究課題
海外学術研究
昭和62年度にザンビア・カメルーンで実施した現地調査で得られたサバンナ化の自然的・人為的背景等に関する試・資料を解析・整理して総括作業を行い、次のような成果を得た。1.全アフリカ半乾燥地域の最近の降水変動全半乾燥地域(年降水量200ー800mm)における降水量の長期変動を調べ、1910年代、1970年代初め、1980年代初めに降水量の少ない期間があり、1950年代は降水量が多かったことがわかった。1960年代後半以降の降水量の減少は、降水帯の赤道方向への後退と縮小による。2.ザンビア(1)ザンビア西北部には、過去の乾燥期に生成した風成層とその再堆積物起源の砂質堆積物Kalahari Sandsが広く分布している。この砂層は、第四紀後期の環境変遷の指標になるとともに、その有無が地形発達と人間活動のあり方に対してさまざまな形で影響することを通して、サバンナの形成過程に大きな役割を果している。(2)この地域の特徴的なサバンナ景観、'miombo'と'chipya'疎開林の成立については、この地域に製鉄技術をもった後期鉄器時代の民族が到着し、ミレット農耕のための火入れと製鉄のための燃料木の伐採により乾燥常緑林の退行が始まった800ー400年前までその歴史を遡ることができる。(3)高木の乾燥常緑林は、人間の影響から免れているKalahari Sandsの地域のうち砂層の厚いところにのみ残存している。これはCryptoseplumの優占する階層構造の発達した群落で、天然更新により維持されている。土壌表層は落枝・落葉とA_0層が広く覆い、下層土を含めて浸透性がよい。(4)これに対して、火入れの繰り返しによって表層の有機物が焼失し、土壌が緊密化している周辺の疎開林では、林木と土壌との間の養分循環が不十分である。砂層の厚いところでも、保水力・栄養分に劣るこうした立地は、カラハリ・ウッドランドと呼ばれる疎開林で占められている。ここでは土壌表層に炭片が多数含まれており、火入れの影響の強いことが窺われる。(5)miomboの植生は、カラハリ・ウッドランドの場合よりもいっそう低木化・疎林化し、胸高直径も小さく、火入れをはじめ強力な人為的インパクトを受けているものと考えられる。(6)過去9年分の降水量データの解析から、1980年代の干ばつ時にはザンビア南部を中心に、雨季の期間が短縮するとともに、降水日数が減少していたことがわかった。これは最近における加速的なサバンナ化・砂漠化現象の自然的背景として重要である。3.カメルーン(1)自然変動に起因するサバンナ化・砂漠化の編年を確立する目的で、北カメルーンに分布する古チャド湖の汀線並びに古砂丘の放射性炭素年代による年代決定を試み、約4500年B.P.以降の乾燥化に伴う砂丘活動の活発化が推定された。19世紀のヨーロッパ人探検家の記録の分析から、湿潤な気候環境下で存在していたチャド湖周辺の乾燥林が、その後の乾燥化と人間活動により急速に破壊されたことが確認された。(2)熱帯降雨林に隣接するSanaga川北岸ーBafia間のサバンナの成因について、過去・現在の気候変動と土地条件よりも、最近の農耕活動によることが大きいと判断された。森林が破壊された後は、火入れと土壌条件とが相まってサバンナ化が進行している。(3)西カメルーンのOku山地では、1960年代以来の農地開発のため森林が急速に縮小し、1963ー1986年の23年間にその面積は3000ha減少し、今では7000haを残すのみとなった。環境の荒廃防止のため森林の保護と急斜面の土壌保全対策が必要とされる。(4)最近のカメルーンでは、1973年、1983年の2回、湿潤地域も含めて顕著な干ばつを経験したが、常緑樹林から蒸発する水分の補給を受けるコンゴ気団に覆われる南西部地域は干ばつ被害が軽微であった。(5)バメンダ高地のGrassfiedlsの草原景観、バミレケ高地の農業の起源を復元する目的で採取されたコアの^<14>C年代測定と花粉分析については、なお作業が続行中である。
すべて その他
すべて 文献書誌 (10件)