研究課題
海外学術研究
昭和62年度に本研究補助金を得て、別記の構成による研究班をもって、インドネシア国、主としてジャカルタ市及びその周辺地域、並びに日本国内の夫々の研究室において標記の共同研究を開始した。昭和63年度では、さらに若干の補遺的研究を続行した(但し、インドネシア国へ出向の旅費は別途財源より支出された)。得られた成績(現在続行中の研究を含む)は次のごとく要約される。1.ウイルスの分離とその同定並びに型別:偶々、ジャカルタ市及びその周辺地域において昭和62年秋より今63年春にかけてデング熱の大流行が起こった。臨床的にデング出血熱(DHF)と診断された患者(グレイドI-IVを含む)の末梢血より細胞培養(ヒトスジシマカ及びハムスター賢由来)を用いてウイルスの分離を実施した。接種培養についてポリクローナル抗血清による蛍光抗体染色(FA)により一次的な検索を行い、その陽性例からlimiting dilution法によってウイルス・クローンを獲得した。それらについて血球凝集抑制試験(HI)及び中和試験(NT)、並びに二、三の生物学的試験を行ってデングウイルス(DV)と同定されたもの17株を得た。これに関して型特異的モノクローン抗体(別途にハイブリドーマ細胞培養より作製したもの)を用いて型別を行った。その結果、17株中、1型が3株、3型が14株と判定された。従って、昭和62ー63年度のジャカルタのデング熱流行では3型ウイルスが主役を演じたことが確定された。これらのウイルス株は凍結保存し、以後の研究に供試する予定である。また、他研究者より要請があれば随時分与供給する用意がある。2.臨床病態血液学的研究:DHF患者について各種の血液学的検査を遂行した。特に、フイブリン形成能及び血小板の動態について観察した。得られた成績を概括すると:(1)フイブリン形成能に著明な変化が認められた。しかし、詳しく調べてみると、ある症例ないし病期ではフイブリン形成が阻害されて強い出血を来しているものがある反面、他の症例ないし病期ではフイブリン形成阻止の機能が低下する結果、却ってフイブリン形成が過度に進み、従って著明な血栓形成の起こっているものもあった。また、一旦形成されたフイブリンの溶解性が過度に高まることがあり、要するに、DHFにおいてはフイブリン形成の過程が極度に変動していることが証明された。(2)血小板はDHFのいずれの症例においても強く減少した。別途に行ったin vitroの実験的研究において、ヒト血小板とDVとが特異的反応を起こすことを明らかにしたが、おそらく同様なことがin vivoでも生起するのであろうことが推定された。これらの現象が相互に関連して強い出血を来すと考えられた。3.新分離ウイルスの分子遺伝学的解析:上記17株の新分離ウイルス株より、特定のもの(グレードIIIまたはIVの患者よりの分離株の内、1型2株、3型2株)について分子生物学的・分子遺伝学的解析を行っている。すなわち、ウイルスを精製し、それよりgenomic RNAを抽出し、その3'末端における複製開始の機序を究明すると共に、その遺伝子を大腸菌において発現させる実験を実施している。それに併せて、精製ウイルス及び感染細胞からウイルスのE蛋白及び非構成蛋白(NS1、NS3、NS5等)を抽出して、その生物学的・免疫学的性状を追求している。なお、DVの知見を確実ならしめるため、同様の研究を日本脳炎ウイルスについて遂行し、両者を比較してフラビウイルス全般の特性を究明することを目標とし、さらにそれらの知見とこれら感染症の疫学との関連を考究する計画である。4.新分離ウイルスのオオカへの接種実験並びに蚊組織内のウイルス増殖機構の研究:オオカ(Toxorhynchites)を実験室内にて系統飼育し、性、日令、生活条件等を厳密に一定したものを用い、これにウイルスを胸腔内注射により感染せしめ、時を追うて蚊体内のウイルスの動きを調べている。すなわち、蚊各種組織内のウイルスを定量すると共に、当該組織材料を免疫電顕法により観察してウイルス粒子の所在及び形態を観察している。なお、上記3の項目と同じく、DVの知見を確実ならしめるため、同様の研究をチクングニアウイルスについて遂行し、両者の特徴を比較検討することにしている。
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