研究課題
国際学術研究
1。M_3H(XO_4)_2型結晶において可能な相転移メカニズムの検討の一環として、典型的水素結合強誘電体であるKDP型結晶の相転移モデルについて検討を行った。その結果、スレ-タ-・モデルにおけるH_2PO_4グル-プの配置エネルギ-の微視的解釈を得た。これにもとずくと、転移点と0=H(D)距離の間で見いだされた相関が半定量的に説明されることが明らかになった。この結果はM_3H(XO_4)_2型結晶ばかりでなく、KDPをはじめ多くの水素結合結晶の反転移メカニズムの解明に寄与するものと考えられる。2。1)M_3H(XO_4)_2型水素結合結晶の中で、誘電率からは4.2Kまで相転移がみいだされていない物質群からRb_3H(SeO_4)_2を典型的物質として選び、まず本当に相転移の兆候がみられないかどうかを確認するため、室温から20Kの温度範囲で格子常数の温度変化の測定を行った。この結果相転移の異常はみいだされなかった。この結果は“Rb_3H(SeO_4)_2がKDPより長いディスオ-ダ-可能な2.514(7)Aの対称水素結合をもちながら、なぜ相転移をおこさないのか"という色素結合結晶の相転移にとって基本的な興味ある問題を提起した。2)Rb_3H(SeO_4)_2(H塩)とは異なりRb_3D(SeO_4)_2(D塩)では92Kに誘電率に異常が見いだされているが、これが格子常数にどのようにあらわれているかをみるため、1)と同様室温から20Kの温度範囲で格子常数の温度変化の測定を行った。D塩の格子常数の温度変化の様相は、全体としてH塩のそれとよく類似しており、転移点での有意の異常はみられなかった。しかし、いくつかの最高角の反射角の温度依存にはわずかながら異常が現れており、これが相転移によるものと考えられる。この結果にもとずき、この物質ではなぜこのように転移点での格子常数の変化が小さいのかを、M_3H(XO_4)_2型水素結合結晶の“O次元水素結合ネットワ-ク"という特徴との関連で考察した。3)H塩とD塩の室温、110K、25Kで結晶構造解析を行い、おもに次のような結果を得た。a)H塩及びD塩のすべての温度でのデ-タを室温の空間群(A2/a)で解析したが、特に問題は起きなかった。b)すべてのデ-タに共通して、SeO_4イオンの2つの酸素(0(2),0(3))の熱振動が異方的である。c)2つのRbと周りの酸素(配位数はともに10)との結合は温度変化するが、特殊位置にあるRb(1)の方が一般位置にあるRb(2)よりも強く、またH塩の方がD塩よりも強い。d)SeO_4内の結合距離・角度には大きな温度変化や同位体効果はみられないが、2つのSeO_4をむすぶ水素結合に関連した量にH塩とD塩の間で差があらわれている。例えば、0(2)…0(2)距離及びH(D)の等方性温度因子は、H塩では温度降下とともに直線的に減少するが、D塩では25Kの方が110Kよりも増加しており、これらに相転移の影響があらわれているように思われる。これらの結果にもとずけば、D塩の相転移は低温相においても重原子の構造は高温相(やH塩)と殆んど変わらないが、プロトンの運動の秩序化のため水素結合系及びそれに直接関係した構造部分にのみわずかの変化があらわれるような構造変化を伴う相転移であると思われる。今後はこの研究で得られた重原子に関する知見にもとずいて、H(D)の構造や運動についての知見を得ていく段階にはいっており、この目的の達成のため中性子構造解析や比熱の測定を計画している。
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