研究課題
国際学術研究
主鎖にーP=Nー結合を持つ半無機高分子ポリオルガノホスファゼン(POP)は、広い応用性を有する機能性高分子のひとつとして、国内外から多くの関心を集めている。本研究では、結晶性を有する種々のPOPについて多角的な構造学的研究を行い、この高分子材料を分離膜や電子材料として応用を計る際に有用な新しい構造学的基礎知見を蓄積することを狙いとする。昭和63年度は、各種の構造研究手段を用いて、次の事を重点的に研究した。(1)P原子の対称置換基として、pーフルオロフェノキシ基を導入した場合とpークロロフェノキシ基を導入した場合のPOPを熱処理する際に見られる結晶変態の詳細な検討を行った。特に、ポリ[ビス(pーフルオロフェノキシ)ホスファゼン]の場合は、単結晶を作製し電子線回折を実施して格子定数を定めながら単斜晶→斜方晶への結晶多形を研究した。(2)上記二種のポリマ-に加えて、ポリ[ビス(トリフルオロエトキシフェノキシ)ホスファゼン]及びポリ[ビス(フェノキシ)ホスファゼン]の4種の結晶性ポリホスファゼンが示すメソモルフィック相より等温結晶化させた場合の変態速度に関する構造学的検討を行った。実験手法としては、脱偏光強度法(Depolarization Light intensity Method;DLI法)を用いた。等温結晶化の際、初期融解条件が異なっても熱力学的エネルギ-変化が可逆的に生じるが、形態学的には異なった状態となることを見い出した。これは核形成のモ-ドの相違に基づくと説明した。また、平成元年度においては、昭和63年度の研究成果を配慮して、次の事を研究した。(3)P原子の対称置換基として、mーメチルフェノキシ基を導入したポリホスファゼンとpーメチルフェノキシ基を導入したポリホスファゼン単結晶の作製とその構造解析を検討した。ポリ[ビス(mーメチルフェノキシ)ホスファゼン]については、X線回折と電子線回折を併用して格子定数を定めながら結晶多形を研究したが、他の結晶性ポリホスファゼンとは異なって、熱処理を行っても単斜晶→斜方晶への変態は観察されなかった。(4)フェノキシ基をリン原子に対して対称置換した結晶性ポリホスファゼンが示す結晶変態速度について、試料膜厚依存性とメソ相内結晶核形成効果に関する詳細な検討をDLI法により実施した。一定温度において繰り返し結晶化を行わせると次第に結晶化速度は増大し、平衡に達する。これはポリホスファゼンのメソ状態からの核形成が結晶化に対して支配的に作用することを意味している。更に、膜厚は結晶化速度に大きく影響しないことを確認した。(5)pーフルオロフェノキシ基を導入した結晶性ポリホスファゼンの超音波音速変化及び超音波吸収測定による相転移挙動の検討を行なった。音速は、測定時温度の上昇と共に減少し、約50℃と170℃で著しく減少することを見い出し、前者は非晶分子鎖の弾性率緩和による変化であり、また、後者はT(1)転移に対応した現象と推定した。一方、測定温度の低下に伴って-10℃付近に音速増加率が増加する結果を得て、これをガラス転移点による効果と判断した。以上の研究項目の内、特に(4)、(6)については、国際共同研究が終了した後も継続して鋭意検討が続けられる予定である。本国際共同研究は、日米の研究者間相互理解を深める上においても、極めて有益であった。
すべて その他
すべて 文献書誌 (19件)