研究概要 |
黄色ブドウ球菌のマクロライド(ML)耐性について、広い疫学的調査から、ハンガリ-に特異的な耐性株のあることを発見し、それを疫学的、生化学的遺伝学的に解析することが出来た。この3年間に得られた成果は次の如くである。 黄色ブドウ球菌のML耐性は14員環マクロライドであるエリスロマイシン(EM)、オレアンドマイシン(OL),16員環マクロライドであるジョサマイシン(JM)等、がありML耐性株は殆んどがリンコマイシン(LCM)、ストレプトグラミンB(S)耐性であるのでMLS耐性と表現される。この内EMかOMの存在下で誘導的にMLS耐性になるのをC群,構成的に耐性であるのをA群としている。誘導耐性でもEM,OLにのみ耐性でありJMに耐性化しない株をB群としたが、今回ハンガリ-と日本での疫学調査結果を比較すると、ハンガリ-ではA8%,B30%,C62%であり、日本ではA54%,C46%でB群がなかった。 このB群株はハンガリ-特有であり、平成元年度の分離株も含め、ハンガリ-で11年間にわたって分離された10755株の黄色ブドウ球菌の中に413株がB群であった。413株中94%がファ-ジ型I群菌に属し、起原が1つであることが推定された。 B群菌のML耐性遺伝子はプラスミド上にあり、50kb,23.8kb,16.8kbの大きさの3種のプラスミドが関与していた。B群菌はマクロライド耐性の他、ペニシリン(PC),クロラムフェニコ-ル(CP),テトラサイクリン(TC)耐性を伴うことが多く、又水銀剤(Hg)やカドミウム(Cd)等重金属耐性も伴った。この内CP,TC耐性はそれぞれ2.9kb,44kbの独立したプラスミド保有の為であることがわかった。PC,Cd遺伝子はすべてML耐性遺伝子と同一プラスミド上にあり、23.8,50kbプラスミドはその他にHg耐性遺伝子も保有していた。年次変化を追うと、TC耐性プラスミドは約70%の頻度でMLプラスミドと共存しているが、CP耐性は1979年までML耐性と80%の連関があったのに、その後次第に減少し1989年には10%以下になった。これはCP使用の低下に伴ってCP耐性プラスミドを失った株が多くなった為と考えられた。 ML耐性の生化学的機序を解析すると、in vitroのタンパク合成系で、耐性菌より得られたリボゾ-ムは感受性菌由来のリボゾ-ムと同様MLに感受性であった。又耐性菌の増殖で培地中のMLの活性低下もなく、薬剤の不活化は認められなかった。菌体内へのMLのとりこみは低下していたので、とりこみ低下か、排出機能の亢進が考えられた。MLの中、16員環薬剤又リンコマイシン系薬剤には感受性であるがストレプトグラミンBには耐性であるため、MLへの部分耐性としてPMS耐性と名づけた。 PMSプラスミドの不和合性を調べると、A群ML耐性プラスミドp^<I258>と同じinc1に属した。p^<I258>とPMSプラスミドを制限酵素地図で比較すると、23.8kbと16.8kbのPMSプラスミドは複製遺伝子部分とPC耐性部分は同一で、それらに狭まれたML耐性遺伝子部分、すなわちp^<I258>では10kb,PMSプラスミドでは4kbの部分が全く異なっていた。PMSの16.8kbプラスミドはHg耐性遺伝子を欠き、その他の部分は23.8kbプラスミドと同一であった。 以上の成績の一部は日本の国際誌Microbiology and Immunology 34,723ー735,1990に発表し、尚PMSプラスミドDNAの塩基配列決定まで、研究は続行中である。 これらの研究と平行して、ブドウ球菌と同様に院内感染において重要な原因菌である緑膿菌の分類において、日本で知られていないファ-ジ型別,ピオシン型別法を日本の株を用いて協同研究し、緑膿菌学会に発表した。すなわち近年使用が増加しつつある新キノロンに耐性化した株で、血清型は変らずにファ-ジ型やピオシン型が変るものがあり、これらは細菌表面の膜構造解析に新しい知見を加えるものと期待された。
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