研究課題/領域番号 |
63044096
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
好村 滋洋 広島大学, 総合科学部, 教授 (50034583)
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研究分担者 |
SPRINGER Tas ユーリッヒ研究センター, 固体物理研究所, 研究室長
SCHWAHN Diet ユーリッヒ研究センター, 固体物理研究所, 研究員
武田 隆義 広島大学, 総合科学部, 助教授 (70034593)
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研究期間 (年度) |
1988 – 1990
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キーワード | 中性子小角散乱 / 偏極中性子透過 / YBa_2Cu_3C_7 / 磁束線格子 / 磁束線デピニング / フラックス・クリ-プ / 高温超伝導体 |
研究概要 |
1、研究の経過 昭和63年度より平成2年度までの3年間の本研究期間のうち、初めの2年間は中性子小角散乱法により、最後の1年間は中性子偏極解析法によりYBa_2Cu_3O_7またはBi_2Sr_2CaCu_2O_8の磁束線格子構造の研究を行った。 2、中性子小角散乱法 〔実験方法及び結果〕 この方法では、今まで良く知られている超伝導体であるNbについて測定の有効性を確めた後、それぞれ多結晶と単結晶のYBa_2Cu_3O_7およびBi_2Sr_2CaCu_2O_8について、温度4.2K、磁場75〜550Gを加えて磁東線格子構造に基づくブラッグピ-クの測定を試みたが、実験の誤差の範囲では観測できなかった。標準試料で得られたNbのブラッグピ-クと仕較することによりYBa_2Cu_3O_7における磁場の変化の振幅は少なくともNbの20分の1以下であることが判明した。 〔結果の考察〕 この原因として考えられるのは、超伝導酸化物YBa_2Cu_3O_7は温度4.2Kでコヒ-レント長ξ=12A、侵入深さλ=1400A程度で、ギンツブルグ・ランダウ・バラメ-タκ=λ/ξが100程度の極めて大きな値を持つ。これをκ=4程度の超伝導金属Nbと比較すると、本実験条件で磁束線格子構造に基づくブラッグ・ピ-クが実験精度内で観測されないのは無理もないと考えられる。 この方向での実験を成功させるには、次の実験条件が必要であると考えられる。 1、大きくて良質の単結晶試料を得ること。(少なくとも5×10×10mm^3) 2、2次元中性子検出器を用いること。(およそ64cm×64cm、1cm分解能) 3、中性子の入射方向に磁場をかけ、同じ方向に結晶のc軸を揃えること。 4、温度4.2K〜100K、磁場0〜4000G可変とする。 このため、高温超伝導酸化物の磁束線格構造に基づくブラッグ・ピ-クの測定には、将来に向けてより周到な準備が必要と思われるので、当面偏極中性子の試料透過後の偏極解析法を試みることにした。 3、中性子偏極解析法 〔実験方法〕 YBa_2Cu_3O_7の磁束線格子構造の整列状態及び擾乱状態による偏極中性子の透過後の偏極率Pの測定を試みた。YBa_2Cu_3O_7についてc軸の揃った多結晶試料のc軸に垂直または水平方向に磁場H=6KGをかけたまま温度を150Kから異なる温度T〔K〕に下げ、波長λ=4Aの偏極中性子を透過させた時の偏極率Pとして、P=1.0が得られた。ここで磁場をほとんどO(H=12G)にしたときのPを測定したところ、温度Tによって異なる偏極率P(〈1)が得られた。(図1) 〔実験結果〕 上のPの温度依存性は、Hicに対しては、T=4.2KではP=0であるが、温度とともにPは単調に増大し、超伝導のなくなるT=95K付近でP=1となる。H//cの場合には温度上昇とともにT=4.2KのP=0から始まり、Pの極大と極小を示した後T=95K付近でP=1となる興味深い挙動を示す(図1)。また上のPの値は、数百秒の時間スケ-ルで時間変化する緩和現象を示す。この時間変化の割合は、磁化の変化の割合よりはるかに大きい。この原因は熱の擾乱により磁束線のデピニングが起こり、フラックス・クリ-ブが生じるためであると考えられる。(図2) 〔結果の考察〕 上の結果は磁束線のデピニングやフラックスクリ-ブの現象と結び付いているが、その詳細なメカニズムはまだ不明である。しかしながら本測定は、磁束線の整列及びその乱れに対して極めて敏感であり、磁束線格子構造の振舞いの定量的なキャラクタリゼ-ションおよび磁束線のピニング機構を解明する上で極めて有効な研究手段であることが判明した
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